姫路科学館>科学の話題>昆虫マンガ「カブちゃん」>第73話

姫路科学館・昆虫マンガ「カブちゃん」第73話

カブちゃんは、「姫路科学館だより」に掲載されている4コマ漫画です。

第73話~トンボの飛ぶヒミツ♪の巻~

トンボの飛ぶヒミツ♪の巻

バッタ博士のミニ知識【トンボの羽を動かすエネルギー】

 トンボの羽4枚は各々別個に付いた筋肉の動作により、急発進、急上昇、ホバリング、急ターンといった自由自在な飛翔を可能にしています。人間の発明した飛行機には決して真似のできない複雑な飛翔ですが、その飛行速度もかなりのもので、トンボ科やヤンマ科の仲間は秒速7m~10m(時速25km~36km)に達します。また『トンボのすべて』(井上清・谷幸三著、トンボ出版、1999年)によると、瞬間的には時速100kmに達する種もあるとのことです。
 この速度を実現するトンボの羽の動きは1秒間に数十回にも達します。その筋肉を動かすエネルギーはミトコンドリアが支えています。ミトコンドリアは細胞内にある小器官で、酸素を使ってエネルギーを作り出しています。大きさは0.5μm程度の球形や円筒形のものが多く、中には紐状や網目状のものもあり、長さ10μmに達するものもあります。
 ミトコンドリアは独自のDNA(ミトコンドリアDNA=mtDNA)で分裂増殖し、mtDNAの果たす重要な役割がATP合成と呼ばれるエネルギーの合成です。ATPというのはアデノシン三リン酸(Adenosine Triphosphate)のことでC10H16N5O13P3という化学式で表される分子です。生体内に広く分布しており、このATPの燐酸(H3PO4)の分子が結合したり分離することで、エネルギーの貯蔵や放出、物質の合成や代謝といった生命活動に重要な役割を果たしています。
 トンボや人間はもちろんのこと、全ての真核生物がこれを利用して生命活動の基本である代謝を行っています。ミトコンドリアの中では、酸素と炭水化物が分解された糖から、二酸化炭素と水が生成され、その課程でATPが生産されます。トンボの羽を動かす筋肉の細胞内には巨大なミトコンドリアがぎっしりと並んでいて、羽を動かすのに必要なエネルギーはここで産み出される大量のATPによって供給されています。