【リュウグウ&「はやぶさ2」おかえり観測キャンペーン】観測ガイド

2020年12月6日(日)に、小惑星「リュウグウ」の試料を持って、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰ってきます。その際の観測ガイドを掲載します。

執筆:倉敷科学センター(学芸員) 三島和久

2020年12月6日:「はやぶさ2」地球帰還

小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」の土壌サンプルを携え、地球に戻ってきます。地球に接近する「はやぶさ2」(以下、探査機と記します)は日本からも観測できる可能性があります。
最終誘導計画
図1 2020年10月29日「はやぶさ2」記者説明会資料より(JAXA)
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探査機はTCM(軌道修正)を5回実施して、地球方向への正確なアプローチをめざします。最終的には地球大気圏に再突入する軌道に入り、土壌サンプルを内包した帰還カプセルを分離。その後、探査機本体はTCM-5の噴射で再突入軌道から離脱。地球近傍の南半球上空を300km前後の高度ですり抜け(フライバイ)、次に探査を行う小惑星をめざして地球を離れていきます。一方、帰還カプセルは大気圏に突入。パラシュートを開いてオーストラリアの砂漠地帯に着地します。

11月25日TCM3直前の「はやぶさ2」と地球の位置関係
図2 11月25日TCM3直前の「はやぶさ2」と地球の位置関係・AstroArts社 ステラナビゲータVer.11で作図
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今回の地球帰還への最終誘導で探査機の観測が可能となるためには、探査機が太陽方向の昼側からではなく、夜側の方向から地球に近づいてくる必要があります。図で探査機と地球の位置関係を示すように、幸いなことに探査機は、夜側、かつカシオペヤ座方向(北半球方向)から近づいてくることが分かります。つまり、地球最接近前は観測条件がよく、最接近後は昼側の方向に回り込み、観測できない傾向になっていることを示唆しています。

アマチュアクラスの機材で探査機がとらえられる距離が10万km前後と想定すれば、日本国内で観測できる時間帯は12月5日薄明終了後から6日未明にかけてとなります。

「はやぶさ2」観測条件の概要

表1 「はやぶさ2」最終誘導のタイムライン

日付 日本時間 距離 できごと
12月5日 14~15時ごろ 22万km 帰還カプセル分離
15~17時ごろ 20万km TCM-5(探査機が軌道修正の噴射を実施)
18時前後 16万km 各地で薄明が落ち着き、観測可能な時間帯へ
21時前後 11万km 各地で月齢20の月がのぼり始める
22時ごろ 10万km 探査機との距離が10万kmを下回る
12月6日 1時ごろ 3.5万km 探査機を最も観測しやすい時間帯へ
1時55分~2時00分ごろ 1.3万km 探査機が地球影に潜入し、観測不可能に
2~3時ごろ 探査機が南半球上空で地球最接近(高度300km前後)
帰還カプセルが大気圏に再突入

表2 「はやぶさ2」探査機位置情報の概要(東京)

時刻(日本時間)赤経赤緯仰角方位角距離光度位相角移動量
12月05日18時00分00h32m55°43m66°206°16.4万km16.8mag57°0.23arcsec/sec
1205 19 0000 33 55 48 70 186 14.6 16.5 57 0.21
1205 20 0000 35 55 47 69 163 12.9 16.2 57 0.29
1205 21 0000 37 55 36 64 147 11.1 15.9 57 0.51
1205 22 0000 41 55 11 57 139 9.3 15.5 56 0.93
1205 23 0000 48 54 23 50 134 7.5 15.0 55 1.70
1206 00 0001 00 52 47 42 132 5.6 14.4 53 3.39
120601 0001 25 48 59 36 129 3.5 13.4 48 8.74
120602 0002 32 29 13 30 106 1.3 11.2 32 67.40

探査機のタイムライン、位置情報の概要は上記の通りです。

気になる光度ですが、残念ながら肉眼で観測できる明るさには達しません。高感度デジタルカメラや冷却CCDなど、天体撮影に用いる機材での写真観測が主体となり、星雲・星団や彗星の直焦点ガイド撮影で使用される規模の機材体制、撮影スキルが必須となります。
光度の予測は、探査機の姿勢や太陽光に照らされている機体面が、どの程度地球側に向いているかという不確定要素によって大きく変動します。±2等級程度の誤差を含んでいると想像され、あくまで参考情報として取り扱ってください。
位相角は数値が小さいほど、太陽光線が探査機を観測者の視線方向から照らしている(明るくなる傾向がある)ことを示しています。時間が経過するにつれ、探査機との距離が縮まり光度が上がってきますが、午前2時直前に探査機が地球影に潜入してしまうため、以降の観測ができなくなります。よって午前1時台が観測のハイライトとなります。地球最接近後の探査機は、昼間の方向に回ってしまうため観測はできません。

2015年12月3日「はやぶさ2」地球スイングバイ
図3 「2015年12月3日「はやぶさ2」地球スイングバイ」・撮影:倉敷科学センター

観測計画を立てる上で注意していただきたいのは、探査機の地球最接近が近づくにつれ、移動量が急激に増加する点です。機材の特性により限界の時間帯に差がありますが、恒星追尾では、どこかのタイミングで短時間露出でも探査機を点像にとらえることができなくなるため、単純に露出時間を増やすだけでは探査機を明るく写せなくなります。通常の 12~14 等級の天体をとらえる撮影感覚とは勝手が違います。より集光力がある明るい光学系を選択するか、探査機を追尾できる能力を持ち合わせた架台システムを活用するなど工夫が必要です。
21時前後には月齢20の月がのぼり、以降の時間帯は月照下での撮影となります。撮影手法しだいでは、午前1時より前の時間帯の方が探査機をよりよくとらえられる可能性もあります。最終的には各自の天体撮影経験に基づき、最適な観測計画を検討いただくことをおすすめします。

「はやぶさ2」の見え方について

「はやぶさ2」の札幌、東京、福岡での見え方
図4 「はやぶさ2」の札幌、東京、福岡での見え方(マーカーは10秒間隔)/AstroArts社 ステラナビゲータVer.11で作図
午前2時以降は地球影に潜入し観測できなくなるので注意
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「はやぶさ2」の移動
図5 「はやぶさ2」の移動(マーカーは10秒間隔)/AstroArts社 ステラナビゲータVer.11で作図
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地球に接近した探査機は、観測する場所によって視差を生じます。観測者独自の位置情報を提供しなければならないのはこのためです。観測を開始できる18時ごろにはカシオペヤ座付近に位置しており、観測のハイライトとなる午前1時台には、徐々に移動量を増加させながらアンドロメダ座からさんかく座付近を移動していきます。
観測地は月照下であることと、北西から西方向の星野環境を考慮して選択するようにしてください。午前1時台の地平高度は30~40°です。
光度の予測は機械的なもので、細かな不確定要素までは考慮されていません。人工衛星など人工的な構造物の観測では、太陽電池パネルに太陽光線が鋭く反射し、イレギュラーに探査機の光度が跳ね上がるということがしばしば起こります。予想外の事態に備えて、できるだけ長い時間、探査機を監視いただけますことを希望します。
なお、観測後の報告時には人工衛星の誤認に注意が必要です。最もシンプルな確認法は、写った対象の移動が予測された探査機の移動方向、移動量と合致するかどうかの見極めです。

今回と似た、探査機による地球フライバイ観測の過去の事例

似た事例として、2015年12月3日の「はやぶさ2」、2017年9月22日の「オサイリス・レックス」、2020年4月10日の「ベピコロンボ」による地球スイングバイ観測があげられます。過去の観測の実例は、各探査機の観測キャンペーンのWebサイトにて記録が公開されています。事前にしっかりご確認いただき、観測計画を立てる参考になさってください。

表3 日本で観測条件がよい時間帯での各探査機の見え方の比較
リンク先は各キャンペーンのサイトへ

探査機名 距離 光度 移動量
はやぶさ2(2015年・地球スイングバイ) 1万km以下 8~11等級 90分角以上/分
オサイリス・レックス(2017年) 8万km 13等級前後 6分角/分
ベピコロンボ(2020年) 12万km 12等級前後 3分角/分
はやぶさ2(2020年・地球帰還) 2万km 12等級前後(予測値) 18分角/分

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