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姫路市立城郭研究室

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    姫路城への道しるべ 第7章 武士・町人の暮らし

    • 公開日:2021年7月5日
    • 更新日:2021年9月21日
    • ID:17201

    橋本政次『姫路城の話』から

    この本には武士や町人の暮らしにかかる具体的な記述はありません。著者である橋本政次氏は、『姫路城史』(名著出版復刻)において各藩主の家族や治績を紹介していて、参考になります。

    武士の暮らし

    お殿様の遊芸
    加賀殿再訪

    藤沢周平や吉村昭の小説もいいですが、武士の生活を知るためにはまず、その人が生きた時代に書かれた史料(古文書)を読むのが一番です。でも、くずし字で書かれた古文書をすぐに読みこなすことは困難です。ふつうの言葉で解説された本や図録があれば非常に助かります。

    姫路藩についてみると、藩士の家もしくは個人についてまとまって残っている史料が非常に少なく、具体的なことがわかっていません。ただ幸運なことに、藩主酒井忠恭、忠以については公的もしくは私的な内容を記した日記が残っており、そのうち忠以の「玄武日記」については、翻刻を『城郭研究室年報』に掲載しています。大名については比較的まとまった文書群として残っている場合があるため、こうした史料から大名の生活実態やパーソナリティに迫ることが可能です。

    姫路とは直接関係ありませんが、そうした史料を上手に使いながら書かれた山本博文氏の一連の著作は一般の人にも読みやすくなっています。その他に、佐藤憲一『伊達政宗の手紙』(洋泉社、2010年)、また食生活の視点からは江後迪子『萩藩毛利家の食と暮らし』(つくばね舎、2005年)、芸術の視点からは板橋区立美術館『お殿様の遊芸』(2006年)をあげておきます。

    一方、文献史料ではなく、考古学から武士の生活が最近いろいろとわかってきました。とくに江戸遺跡の調査事例はこの分野の研究をリードしています。西秋良宏編『加賀殿再訪』(東京大学出版会、2000年)は前田家屋敷跡である東大本郷キャンパスの調査成果を総合的に報告したものです。一般向けには、宮崎勝美『大名屋敷と江戸遺跡』(山川出版社、2008年)があります。最近の江戸ブームや江戸開府400年とも相俟って、品川歴史館『しながわの大名下屋敷』(2003年)、新宿歴史博物館『尾張家への誘い』(2006年)、文京ふるさと歴史館『水戸黄門邸を探る』(2006年)、同『発掘された武家屋敷』(1994年)なども相次いで刊行されました。

    江戸時代は身分制がきっちりと決まっていました。同じ武士身分でも、大名とその家臣では生活水準が異なります。大名の生活がわかっても、私たちには共感が得られないことも少なくありません。磯田道史氏は偶然古書店でみつけた古文書群からある金沢藩士の幕末から大正にいたる家の歴史を明らかにしました(『武士の家計簿』新潮社、2003年)。この本は、江戸時代のある武士の一家に視点を据えて、武士と現代の私たちの生活の共通点と相違点を描き出し、歴史の面白さを教えてくれました。こうしたいわば生身の人間としての武士の実態を紹介したものは、最近のものとしては増川宏一『伊予小松藩会所日記』(集英社、2001年)、高橋義夫『足軽目付犯科帳』(中央公論新社、2005年)、青木直己『幕末単身赴任下級武士食日記』(NHK出版、2005年)、大岡敏昭『幕末下級武士の絵日記』(相模書房、2007年)などをあげておきます。

    やはり史料を読みたいけど、くずし字を勉強する余裕は無いという方でも、『鸚鵡籠中記』、『幕末百話』、『旧事諮問録』、『世事見聞録』、『松蔭日記』(いずれも岩波書店)、『氷川清話』(講談社、2000年)などは活字になっていますので、こういうものから始めてみるのはどうでしょう

    町人の暮らし

    国府寺家文書

    町人の暮らしをわかりやすく書いた本を探すのは意外と難しいものがあります。小説ではありますが、石川英輔氏の本などは文庫にもなっていて読みやすいものです。最近の流行で図版やイラストを多く交えた書物が刊行されています。『ビジュアルNIPPON江戸時代』(小学館、2006年)は、町人だけでなくこの時代の通史をまさしくビジュアルに表現しており、中学生でも興味深く読むことのできる本です。この手の本は以前からも出版されていました。『ヴィジュアル百科 江戸事情第一巻』(雄山閣、1991年)、『ピクトリアル江戸 町屋と町人』(学研、1989年)を挙げておきます。専門的なものになると経済史や政治権力との絡みなど、日常生活の部分とは離れた研究書が多くなってしまいます。脇田修『近世大坂の町と人』(人文書院、1986年)はその点、生活の視点から大坂の町や人のエピソードを紹介しています。最近では油井宏子『江戸奉公人の心得帖』(新潮社、2007年)で、大店に勤める奉公人の生活を紹介しています。これは白木屋の史料を解読する過程で得られたエピソードをまとめたもので、同じ史料を使って林玲子氏も『江戸店の明け暮れ』(吉川弘文館、2002年)を著しています。

    町人の生活を知るには、当然町方文書を調べる必要があります。姫路では史料があまりないせいか、町人の生活などを著したものをみかけません。江戸、大坂、京都といった大都市の、それも大店の史料を使った著作が多いのは、史料や研究者の関心に偏りがあるためかもしれません。ただし、地方でも地元の商家の史料を翻刻したりしているところもあります。例えば、宇和島・吉田旧記第二輯『国府寺家文書』(1995年)には、当家がもともと姫路町の町年寄だった国府寺家の人間が、伊達秀宗の姫路通行途上召抱えられたという由緒をのせています。意外なところで姫路との接点が見つかることもあり、他地域の史料にも目配りが必要です。

    姫路での教育

    江戸時代の教育といえば寺子屋がすぐに想起されます。姫路では藩士の子弟教育機関として、酒井家では好古堂を城内に設置していました。そこで使用されていた書籍の一部は、現在、姫路西高図書館蔵書となっています。また、林田藩建部家は敬業館を陣屋内に設置し、その施設の一部が現存していますし、敬業館で使用されていた書籍の一部が姫路市立城内図書館に納められています。好古堂について、江戸末期に藩士だった人が、維新後に記憶をもとに学校の沿革を『播磨史談会記事』第二回、明治43年に記録しています。酒井家文書の「姫陽秘鑑」巻之三十二では、好古堂で行われた講義や教授陣について記されており、おそらくこれらが好古堂の概要を知る上での基本文献になるでしょう。