Vol.7 クラフトビール醸造所経営 / 池内正雄さん
- 更新日:
- ID:32143
“白鷺”と共に世界へ -- バーテンダー×ブルワーが挑む“姫路発クラフトビール”

姫路市初のブルワリーとして2022年7月に誕生した「Egret Brewery(イーグレブルワリー)」。25年にわたりバーテンダーとして人とお酒に向き合ってきた池内正雄さんは、あるブルワーとの出会いをきっかけに“つくり手”としての道を歩み始めました。姫路から世界へ、そんな夢と地元愛あふれる一杯と共に、地域に根ざしたビール文化を発信しています。
池内 正雄(いけうち まさお)さん
1976年生まれ。姫路市御立出身。「ホテルオークラ神戸」でバーテンダーとして経験を積んだのち、2002年に独立。これまで姫路市内にバーを4店舗展開する。現在は姫路市苫編(とまみ)にあるクラフトビール醸造所「Egret Brewery(イーグレブルワリー)」と、忍町のバー「Vermillion.(ヴァーミリオン)」の経営を手がける。
興味から憧れ、そして天職に

ビールはもちろん、日本酒も洋酒も幅広く嗜む池内さん。“日本酒のふるさと”と言われる播磨の地で生まれ育った池内さんにとって、お酒に興味を持つことは自然なことだったといいます。さらに学生時代のホテルでのアルバイトをきっかけに、お酒の世界に深く興味を持つように。壁一面に並ぶ多様な銘柄と、グラスを片手にしっぽりとした時間を楽しむ大人の姿が、まだお酒を知らない池内さんの目にはかっこよく映ったそう。

社会人になり、「ホテルオークラ神戸」で4年間バーテンダー技術や営業・接客・経営スキルを磨いた池内さんは故郷に戻り、2002年に独立。そこから自身のバーを4店舗展開し、バーテンダーとして25年間、お酒と人を繋ぐ場を生み出してきました。
“最高の一杯”を求めて醸造所をオープン

池内さんが「酒」を通じて見てきたものは、「人々が集い、語らい、笑顔が生まれる瞬間」。バーという空間でその瞬間を演出してきた経験があるからこそ、「もっと一つひとつのシーンに寄り添った、最高の一杯をつくりたい」という思いが芽生え、醸造家への憧れを持つようになりました。
加えて、バーテンダーとしてお酒の知識を深めるため、国内をはじめ、アメリカ・チリ・イタリア・フランス・香港・台湾・韓国など世界中の醸造所や蒸留所を見て回る中で、ものづくりへの探究心が大きく膨らんでいったと言います。

そんな池内さんに、新しい人生のステージへと導く縁が舞い込んだのが2019年のこと。とある酒屋さんの紹介で出会ったのが、ブルワーの入山航(いりやま こう)さんでした。入山さんは鳥取の醸造所で製法を学び、さらに米オレゴン州ポートランドのブルワリーでも研修を積んだ実力派。その確かな知識と熱量に触れ、意気投合した2人は「自分たちの手でつくったビールを姫路から世界へ届けよう」と志を一つにします。
そして2022年7月、念願のクラフトビール醸造所「Egret Brewery(イーグレブルワリー)」をオープン。姫路城の別名・白鷺城にちなみ、店名には英語で“白鷺”を意味する「Egret(イーグレット)」の名を冠しました。そこには、“姫路の誇りを胸に、世界へ羽ばたくビールを”という2人の願いが込められています。
播磨の素材を使った、自由で多彩なビール

当時はまだ、姫路市内にクラフトビール醸造所がなかったため、醸造免許取得や試験醸造、商品化に至るまでかなりの時間を費やしたと話す池内さん。そこに、世界中を襲った新型コロナウイルス感染症拡大の影響も受け、オープンまで4年の月日を要したのが最大の苦労だったと振り返ります。

そんな苦難を情熱と共に乗り越え、「姫路をもっと盛り上げたい」という2人の思いのもと生まれたビールが、自社栽培の新鮮なホップを使ったビール「Agahop(アガホップ)」。ホップの摘み取りには地元のクラフトビール愛好家ら約20人が参加し、商品名には店舗を構える「英賀保(あがほ)」の地名を起用するなど、地域とのつながりや地元愛があふれます。「Agahop」は2023年の品評会「インターナショナル・ビアカップ フレッシュホップビール部門」で金賞を受賞。開業からわずか1年余りでの快挙であり、“地元で生まれたビールが世界に認められた瞬間”でした。

数あるお酒の中でも、池内さんが語るビールの一番の魅力はその“自由さ”。原材料は麦芽とホップが基本ですが、副原料次第で味わいが無限に広がる——そこにビールづくりの面白さがあると言います。過去には、アメリカ人が営む和歌山のクラフトビール醸造所「ノムクラフト」とコラボし、アーモンドとピーナッツを使った、姫路名物の「アーモンドバタートースト」をイメージしたビールを造ったことも。

ほかにも、過去には姫路市安富町のゆず、室津(たつの市)の牡蠣、加西市のブドウ、綾部山(たつの市)の梅、佐用町のイチゴと栗、丹波市の黒豆など、播磨近郊の素材を生かした地域色が光る多彩なビールを度々プロデュースしてきた池内さんと入山さん。山と海の多種多様な幸に恵まれているのは、「気候が穏やかで、災害も少ないこの土地柄のおかげ」と播磨の魅力を語ります。
お世話になった農家には、ビールづくりで出た麦芽粕を再利用してもらい、畑の肥料として土に混ぜたり、家畜のエサに加えたり、さまざまな形でアップサイクルを行っているそう。地域の農産物を使うだけでなく、ビールづくりを通じてその循環にも関わる--そんな姿勢からも、地元への深い愛情が感じられます。
手を取り合い、姫路から世界へ

2024年5月には、姫路市内のブルワー4社で共同開発した「CHILL DA BEER(チルダビール)」の瓶詰めビールの発売も開始。前年から各社で樽生を提供してきましたが、大阪・関西万博の開催を控え、訪日観光客の増加が見込まれる中、新たな「姫路土産」としての販売が実現しました。
「CHILL DA BEER」 は日本酒から発想を得て、兵庫県産の酒米「山田錦」を使用した全く新しいクラフトビール。「日本酒のふるさと・播磨」に新しい風を吹き込む一杯として注目され、姫路市内のイベントでは、地元の人や海外の方からも好評の声が数多く寄せられています。

「今後は全国のブルワリーを招き、いつか姫路で大規模なビアフェスを開催したい」と語る池内さん。姫路から全国へ、そして世界へ——そんな夢を「Egret Brewery」の翼にのせて、今日も新たな一杯を届けています。

魅力のご紹介
エリア紹介
くらし
移住を応援
ふるさと納税