Vol.4 シンガーソングライター / 中村利紗さん
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「ブレへん自分」で歌い続ける──声と自分を失って見つけた“帰る場所”

ギターを抱えてステージに立つとき、彼女の表情は凛としている。けれど、その声には不思議な温かさが宿る──シンガーソングライター・中村利紗さんは、大阪・関西万博で開催された弾き語りNo.1コンテスト「H-1グランプリ」でグランプリを受賞した注目の存在。声を失った時期や大切な人との別れなど数々の苦難を乗り越え、彼女が今大切にしたい“居場所”とは──20年間音楽活動を続ける中村さんの歩みを辿りました。
中村 利紗(なかむら りさ)さん
1984年生まれ。姫路市広畑区出身。高校卒業後、「OSM 大阪スクールオブミュージック専門学校」へ進学し、同時にシンガーソングライターとしての活動もスタート。姫路市内を中心に音楽活動を行い、2024年1月には市内に「LiveBAR Remember U(リメンバー ユー)」をオープン。2025年10月現在、ラジオ放送局「FM GENKI」「BAN-BAN ラジオ」で冠番組のパーソナリティも務める。
ただただ歌うことが楽しかった学生時代

音楽を始めたきっかけは、高校生のときに見かけたストリートライブ。人だかりの中に立つミュージシャンがとても輝いて見え、憧れた中村さんは早速高校の友人とユニットを組み、ギターを見よう見まねで弾き始めたといいます。

「昔から人前に立つことが好きで、子どものときから地域のカラオケ大会に出たり、ダンスを習ったり、好奇心旺盛な性格でした」と話す中村さん。これまでいろいろな習い事を試した中でも、ギターが一番楽しく続いた“趣味”だったそう。人前で演奏したいという思いから、Gコードしか弾けないまま、思い切ってストリートに立ったこともあったとか。
「結局ほとんどアカペラになったんですが、姫路の人はすごく温かく見守ってくれて、当時は歌うことがただただ楽しかったですね」という中村さんは、高校卒業後、大阪の専門学校でプロミュージシャン科に進学。さらに東京でも音楽活動を続けますが、当時は今ほどSNSが普及しておらず、ブログだけが発信手段。すでにストリートで活躍する人も多く、「自分の居場所がなかった」と当時を振り返ります。
声を失い、耳が聞こえなくなった日

中村さんがさらなる苦難に見舞われたのが22歳のころ。大きなオーディションのプロジェクトで行われたレコーディングの際、突然声が出なくなり、せっかく手にしたチャンスを失うことに。同時に耳も聞こえなくなり、医師に相談しても明確な原因は分からないまま、数年間は音楽から離れ、アルバイトに没頭する日々が続きました。「自分には音楽をやる資格なんてない」──そんな苦悩を抱えると同時に、自分がどれだけ“歌うこと”を心の支えにしていたのかを気付かされた期間でもありました。

そんな中、転機は突然にやってきます。知り合いのバーで飲んでいたある日、「今度、久しぶりに歌ってみない?」と声をかけられたことが再びステージに立つきっかけに。後日、バーで開催されたミニライブに昔のファンが駆けつけてくれ、「帰ってきてくれてありがとう」と声をかけられたときは、涙と共に中村さんの中で秘めていた思いがあふれ出したといいます。
「私には、待ってくれている人がいる。だから、また歌おう」。そんな小さな希望が、中村さんの背中をそっと押しました。
相棒との“セカンドプレイス”

もう一つ、心の支えとなった存在が10年来の仲であり、中村さんのマネージャーを務めるTAMOさん。「BANBAN ラジオ」で「Risa&TamoのLaughter Night」という番組を2人で持つほか、中村さんはTAMOさんが運営するYouTubeチャンネル「TAMOちゃんnel」にも出演し、一緒に表舞台に立つ機会も増えました。
YouTubeで活動を始めたのは、コロナ禍でライブの機会がなくなったことがきっかけだったそう。何か面白いことをしたいというTAMOさんの思いに賛同し、「大人の真剣な悪ふざけ」をコンセプトに、コント仕掛けの歌動画を制作するように。今でも、二人でアニメのパロディ動画を作ったり、ラジオ番組を配信したりする時間が、中村さんにとって大切な“息抜き”になっています。
「Remember U」──会いたい人に会える場所

コロナ禍を乗り越え、地元でのライブ出演など音楽活動を続ける中で、改めて音楽ができる幸せや地元の人の温かさを感じたという中村さん。「音楽を通じて人と人が繋がる、そんな温かな空間をつくりたい」との思いで、2024年1月に姫路市内に「LiveBAR Remember U(リメンバー ユー)」をオープンしました。

「ハリー・ポッター」に出てくる4つの寮のテーマカラーで作るオリジナルドリンク
ここは、バーとしてお酒や軽食が楽しめるほか、カラオケや中村さんとの即興コラボも可能な唯一無二のスポット。大好きな「ハリー・ポッター」を連想させ一目惚れしたという赤レンガ造りの店内には、映画にちなんだアイテムが置かれるなど随所にこだわりが光ります。

中村さんのファンをはじめ、ストリート時代の仲間や純粋にお酒を楽しみたい人まで、幅広い層が集まる同店。店名には、「会いたい人に会える場所」という想いを込めたそう。「いつかは、自分が若くて尖ってたころ、迷惑をかけた方にも謝りたくて。この場所でまた会えたらなと思っています」と当時の苦い思い出も語ります。

「会いたくても会えない人」と中村さんが悔しさをにじませるのが、学生時代からお世話になっていたミュージシャン。2025年4月に急逝し、感謝の気持ちをきちんと伝えられなかったことを今でも悔やんでいるそう。その人を思って書いた「風の道」は、駆け出しのころに歌う機会を作ってもらったという野外ライブでの風景や、そのときに吹いていた穏やかな風が表現されています。
「声が出なくなって精神的にしんどかったときに、“休むことも大事”と教えてくださった大切な存在です。この曲を聞いてくださる誰かにとって、この曲が“心の拠り所”になれば」──そんな想いを声にのせて届けられる場所が、ここにあります。
「ブレへんこと」──20年歩んで見つけた居場所

活動を続けて今年で20年。「歌詞が重たい」と言われたり、「ハスキーボイスで女の子らしくない」とからかわれたり、服装や髪型さえも指摘されることもあった波乱万丈な日々。それでも中村さんは「ブレへんこと。これが私の信念です」と笑顔を見せます。

大阪・関西万博で開催された弾き語りNo.1コンテスト「H-1グランプリ」では、そんな自分らしさをトークと歌で表現。“今のありのままの自分”を歌いたいと、本番に向けて用意していた曲とは違うものを披露することに。会場に響いた「ここにいるよ」という曲は、中村さんからファンに向けて伝えたかった「ただいま」でした。

「地元の人の支えや応援がなかったら、絶対にここまで来れなかった」──そう地元の魅力を語る中村さんが見る姫路は、“みんなが親戚みたいなまち”と語ります。「姫路には独特のアットホームさがあります。高架下や山陽電車沿いでのストリートライブは、今でも心が落ち着く場所。まちの空気や匂いが好き。どこに行っても、結局ここに戻ってくる。私にとって姫路は“帰りたい場所”なんです」。
最近では、毎月開催される「加古川マルシェ」のステージ管理も担当し、若いミュージシャンに出演の場を提供している中村さん。「昔の自分みたいに、どこで歌えばいいか分からない子たちを応援したい」。その言葉には、かつての孤独を知る人だからこその優しさがにじみます。

最後に、中村さんは若い世代に向けてこんなメッセージをくれました。
「若さは武器。嫌やなと思うことほど、やってみるべき。いろんな場所に行って、いろんな人に出会って。それが全部、自分の糧になるから」
──その言葉には、数々の挑戦と挫折を乗り越えてきた彼女の人生が垣間見えます。これからも姫路というまちで、そして「Remember U」という居場所で、自分らしく歌い続ける中村さんの歩む一歩一歩が曲となり、今日も誰かの背中をそっと押します。

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