Vol.8 ソーシャルプロデューサー / 八木有加さん
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世代を超えて人を結ぶ“架け橋”に。そして姫路の歴史と文化を次の時代へ

地域活性化事業を行う「株式会社AddVenture」の代表取締役として、姫路を滞在型観光地にするためにさまざまな取り組みを行っている八木有加さん。地元への想いを“愛”という一言に留めることなく、古民家再生や衰退の危機にある「姫路生姜」の栽培、まちおこしなど、縦と横のつながりと自身のインスピレーションを生かした斬新なアクションを次々と仕掛けている“繋ぎ人”です。そんな八木さんが描く〝未来へ続く新しい姫路の姿〟とは?
八木 有加(やぎ ゆか)さん
1984年生まれ。大学で心理学を学び、卒業後は大阪で勤務。NPO法人を立ち上げ、企業の課題解決や地域活性化プロジェクトに取り組む。2016年に地元・姫路へUターンし、「株式会社AddVenture」を設立。古民家再生や「姫路生姜」の栽培、まちおこしなど多岐にわたる事業を展開し、現在は地域の人や若い世代と先人をつなぐ“架け橋”として、姫路の歴史や文化を未来へ受け継ぐ存在として注目されている。
“偏差値教育”に疑問を抱き、一度は人間不信に

高校は、いわゆる姫路の名門に進学した八木さん。学校生活の中で「“自分”という人間性をテストの点数だけで評価されているのでは…」そんな風に感じることが多く、いわゆる“偏差値教育”に対する違和感を覚えるようになりました。「なぜ自分はこの学校に通っているのか?」と自問自答する日々が続き、一度は人間不信に陥りかけたといいます。
そんな八木さんを救ってくれたのは両親の存在でした。「勉強できなくてもあんたはあんたや」という両親の声に励まされ、人として認めてくれる存在があることに気付き、高校生活をなんとか乗り越えることができたといいます。その経験は進路にも影響し、大学では心理学を専攻。家庭教師のアルバイトを通して、親から十分に信頼されず居場所を失ってしまった子どもたちと出会ったことがきっかけで、「だれかの“こころの居場所”を作りたい」という思いを抱くようになりました。
今の八木さんの活動の根底には、こうした幼少期・学生時代の苦い経験が息づいています。

2008年に退職後、八木さんはキャリア教育の活動に加え、学生と一緒に大阪のまちで“サードプレイス”を作る活動を始めます。そこでは、カフェや地域の空きスペースを活用し、異なる大学や学年の学生、さらには地域の大人が気軽に集まれる場を企画。ワークショップや勉強会、地域課題のディスカッションなどを通して、若い世代が自らの興味や得意を生かして挑戦できる環境を提供しました。

2012年には、自身の価値観に共感してくれた仲間と一緒にNPO法人「Happy Family Company」を設立。学生主催のイベントを開催する手伝いをしたり、学生と企業を繋いだりと、“若い人の感性を生かす活動”に勤しみます。そして八木さん自身はこの活動を通して、「人と人を繋ぐ」ことの楽しさと意義を体感。サードプレイスで得た経験は、後のUターンや姫路での地域活動、若い世代と先人をつなぐ“架け橋”としての取り組みに直結する大きな学びとなりました。
Uターンで開いた、姫路での挑戦の扉

「生まれ育った姫路というまちが、住んで良かったとか、このまちで働き続けていきたいとか…。そういう気持ちになれる場所になってほしいし、そう思える理由を探すために、あえて20代は姫路市外で過ごしました」と話す八木さん。2015年に家族が病で倒れたことをきっかけに、2016年に地元・姫路にUターンします。

帰郷直後は、古民家再生の企画や空き家活用のプロジェクトに参加し、兵庫県のまちづくり指針づくりの審議会の委員にも参画するほか、地域の衰退しつつある特産品「姫路生姜」の栽培支援にも取り組みます。さらに、まち歩きイベントやワークショップを企画することで、地域の人や若い世代と先人をつなぐ活動にも注力。地域の縦・横・斜めのつながりを生かした、新しい仕組みづくりを進めました。

中でも八木さんにとってビッグプロジェクトとなったのが、築100年以上の「旧竹内邸」を活用した古民家カフェ「パンとエスプレッソと姫路城」のオープンです。Uターンした当時、「姫路城」という圧倒的な観光名所があるものの、「景観」「宿」「体験」「食」の4つの要素が十分にそろっていないことが“姫路=観光の通過点”と見られることに繋がっていると感じたそう。姫路が“滞在型観光地”となることを目指し、まずは古民家カフェを拠点に「食」と「体験」の場を創出し、観光客が立ち寄るだけでなく滞在できる環境づくりに挑戦しました。
このプロジェクトを後押ししたのが、八木さんの人生のキーパーソンである元朝日放送プロデューサー・小関道幸さん。小関さんを通じてH.I.S.の代表取締役会長・澤田秀雄さんと出会い、計画が前進します。しかし古民家改修など多くの課題が立ちはだかり、オープンまでに7年という年月を要し、やっとの思いで完成しました。
地元農家と取り組む「姫路生姜再生プロジェクト」

Uターン後、八木さんがもう一つ専念したのが、地域の特産品である「姫路生姜」の再生です。きっかけは、知り合いからヨガの後にもらった差し入れのジンジャーケーキ。そのおいしさに衝撃を受け、「かつて姫路の農家にとって主要作物だった姫路生姜とかけ合わせて、姫路の新しいグルメを作ることができるのではないか」と考えました。

しかし、肝心の姫路生姜は後継者不足や需要減少により、栽培が衰退しつつありました。そこで数少ない生産者である「白井ファーム」の白井潔さんに協力してもらい、従来の栽培方法を見直し、従来の栽培方法を継承し、若手農家や新規就農者と連携して、新たな生産体制に挑戦中。さらに最近では、曽左小学校や灘中学校とも連携し、子どもたちに生姜の栽培体験や調理体験を通して「地元の食文化に触れる楽しさ」を伝えています。
若い世代と先人をつなぐ“架け橋”として

八木さんは現在、地元・姫路で滞在型観光や地域活性化、古民家再生、特産品再生など、多岐にわたる活動を展開しています。その根底にあるのは、「若い世代と先人を繋ぎ、地域の歴史や文化を未来へ受け継ぐ」という強い使命感です。

「自分が何かをすることで、だれかの“こころの居場所”を作り、地域の魅力と若い人の感性を次の世代に伝えられたら」と語る八木さん。姫路の歴史や文化、地域資源を生かしながら、人々の生活や働く場、学びの場を豊かにする取り組みは、止まることはありません。そしてそれは2025年10月に出産を迎え、一人の親としての視点も加わったことで、次世代への思いはより強くなったといいます。
八木さんの挑戦は、単なる地域活性の枠を超え、今後も「人と人を繋ぐ架け橋」として、未来の姫路にしっかり刻まれていくことでしょう。

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