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Vol.17 地域プロデューサー / 松尾礼さん

  • 更新日:
  • ID:32644

「分からないなら、みんなで考えよう」——姫路で“つながりの仕組み”を編む

松尾礼さん写真

白壁のまち・姫路。このまちを舞台に、企業・学校・行政・市民を繋ぎ、新しい地域の仕組みを紡いでいるのが、「一般社団法人 Social Eight(ソーシャルエイト)」代表理事の松尾礼さんです。「“分からないなら、みんなで考えよう”——私がずっと大切にしてきた言葉なんです」。ふんわりとした口調の奥にある、確かな眼差し。今年、節目の年を迎え、改めて“自分の足で立ち、自分の言葉で繋がってきた人生”を振り返ってもらいました。

松尾 礼(まつお あやさん

1966年、姫路市飾磨区生まれ。企業・学校・行政・市民を繋ぐ地域づくりを推進する「一般社団法人 Social Eight」代表理事。金融機関勤務を経て、子ども向け金融教育やSDGsの普及、地域人材育成に携わる。2021年、一般社団法人「ソーシャルエイト」を設立し、企業×高校の共創プログラム、「Himeji城育(しろいく)」や、地元の偉人をマンガで紹介する「偉人マンガ」プロジェクトなどを展開。多世代・多分野を繋ぐ“仕組みづくり”に取り組んでいる。

姫路生まれ、姫路育ち。静かな子どもが、女性リーダーに・・・

幼少期

「姫路で生まれて、このまちで60年になります」今年節目の年を迎えた松尾さん。現在は、数々の企業や団体と連携し、多くの人を束ねる女性リーダーとして知られていますが、意外にも幼少期は人前に出るタイプではなかったそうです。「小さい頃は引っ込み思案で、外で遊ぶより家の中で絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きでした。親も体のことを心配していて、活発に動くより“無理しないで”という空気がありました」。本人は「授業でも積極的に手を挙げるタイプではなかった」と振り返ります。それでも今、対外的な場で話し、組織をまとめ、多様な人とプロジェクトを進めている松尾さん。その変化は、ある日突然ではなく、環境の変化と“目の前の役割を受け止め、挑み続けた”積み重ねの先にありました。

首都圏で知った「子育てしながら働く」が当たり前の世界

取材の様子

転機の一つは、ご主人の転勤で首都圏へ移ったこと。「東京では、女性が子育てをしながら働くことが“特別”じゃない。別に秘密にしなくてもいいし、周りも自然に受け止めている。価値観が大きく変わりました」。当初はパート、後に契約社員として働きながら、38歳の時に大手生命保険の正社員に挑戦。「狭き門だった」と言いつつも、周囲の働き方に触れたことが背中を押したと話します。 

「“トライしてみよう”と思えたのは、周りに同じような人がいたから。家族も応援してくれて、やってみようと」。子育て真っ最中での挑戦は、生活の設計そのものを180度変える出来事になりました。

事務から金融の最前線へ。リーマンショックが鍛えた“人を集めて動かす力”

金融業界の時代

次に訪れたのは、保険を銀行で扱えるようになった“窓販”の時代。松尾さんはメガ銀行への出向を経験します。「事務しか知らなかった私が、今度は“教える側”になりました。金融知識も販売ノウハウも、全部初めて。不安は大きかったです」。しかも時代は2008年、リーマンショック。市場の混乱と不安が広がる中で、松尾さんが選んだのは、一人で抱え込まない方法でした。「“分からないなら、みんなで考えよう”と、支店、本店関係なく、行員さんを集めて研修会や勉強会を自分で立ち上げました。反対の声もありましたが、お客さまが不安な時に、私たちがどう支えるかを考えるのが自分たちの務めだと思いました」。人を集め、それぞれの地域の課題を持ち寄り、対策を一緒に組み立てる。この経験が「今の組織づくりの基盤になった」と語ります。目の前の困難に対し、つながりを“仕組み”に変えていく力が、この時期に育っていきました。

当時、籍をおいていた出向先の銀行は、上下関係にとらわれず、柔軟に人を受け入れてくれる文化があり、出向から1年で本店を担当するまでに。「子育てや介護、相続といった自身の経験も活かすことができると実感した瞬間でもありました。この経験は、自分にとっても大きな刺激となり、まさに人生の転機となる出来事でした」と当時を振り返ります。

姫路との再接続。金融教育から“地域の軸”へ

姫路との再会

2011年、新たに設立された窓販専用の保険会社の立ち上げに伴い、出向先から窓販専門のグループ会社に戻る辞令が出ます。ちょうど東日本大震災の直後、社会全体が大きな不安の中にあった時期です。「不思議と、私が動くときって、いつも世の中も一緒に動いてるんですよね」と松尾さんは微笑みます。それでも、不安よりも“前に進もう”という気持ちが勝ったのは、これまで社内で数々の新規事業や体制づくりに携わってきた経験があったから。「自分の意志というより、常に“新しいことにトライする場所”に身を置かせてもらっていた、という感覚なんです」。

教育イベントの様子

変化の中に身を置きながら、そのたびに柔軟に向き合い、挑戦を重ねてきた松尾さんの歩みが、また一歩、地元・姫路と繋がっていく転機となります。

金融ボードゲーム

2018年頃から、姫路と繋がる動きが加速します。会社内で女性活躍の取り組みに関わり、兵庫県出身者の縁も重なって「ふるさとで何かできないか」という流れが具体化。姫路市と連携して、子ども向けの金融教育に力を入れようという構想が立ち上がりました。人生の出来事を疑似体験しながら、お金の出入りや意思決定を学べるボードゲームを開発。学校現場で実施する中で、子どもたちの声から“ご当地スポット”のアイデアが生まれ、ボードゲームの盤面には姫路城も登場するようになりました。さらにGIGAスクール構想やコロナ禍を背景に、PCで学べるWeb版を展開。クラスルームと家庭にいる子とも繋がれる新しい学びの形として全国へ広がっていきました。

 「子どもたちの反応は本当に純粋で、こちらが学ばされることも多かったですね。姫路城など、ふるさとの魅力を自然に誇りとして感じてもらえる仕掛けにもなりました」。このプロジェクトが高く評価され、最終的に文部科学省から「青少年の体験活動推進企業表彰」の優秀賞・スペシャルニーズ賞を受賞します。

「一般社団法人 Social Eight」設立。Uターンで確信した“姫路でやる意味”

一般社団法人を設立

2021年、副業解禁の流れを受けて、松尾さんは「一般社団法人 Social Eight」を設立。「企業と自治体の連携は、“できる範囲”に限界がある。でも、真ん中に“軸”となる団体があれば、さまざまな立場の人が関われて、より大きな課題解決に繋がるのでは」と考えたのがきっかけでした。

高校と企業の共創プロジェクト

活動は、夏のSDGsイベントを核とし、高校と企業の共創プロジェクト、年間講座「Himeji城育」、偉人紹介企画など多岐にわたります。たとえば、「姫路女学院高等学校」と企業「日東社」の連携では、学生が考案したデザインをもとに観光PR用のマッチ商品が開発されるなど、若い発想と企業の知見が結びついた成果が生まれました。「企業同士、学校と企業、世代も職種も異なる人が出会うと、思いもよらない企画が生まれる。それが一番の醍醐味」と語る松尾さん。立場を越えた出会いの場をつくることこそが、活動の原動力となっています。

さまざまな活動を展開

Uターンして改めて感じた姫路の魅力は、「過ごしやすさ」と「選べる時代の強み」。「今はテレワークも広がって、住む場所と働く場所が一致しなくてもいい。だったら“過ごしやすい場所”を選べる。姫路は温暖で暮らしやすく、生活コストも違う。何より地域の活動に関わろうと思った時、地元愛は大きな原動力になります」。

スキヒメメッセージ

最後に大切にしていることを尋ねると、答えは“バランス”でした。「男性の強み、女性の強み、若い発想、経験の知恵。どれか一方では解決できないことを、総合力で前に進めたい。ここではできないことを、みんなでやろう——その掛け算を増やしていきたいです」。

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