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Vol.20 音楽療法士 / 井垣美奈さん

  • 更新日:
  • ID:32790

音楽療法×リトミックで姫路に音色を響かせる——“音育”で世代を超えた居場所づくり

井垣美奈さん写真

「赤ちゃんのころから“本物の音”にふれることは、豊かな心を育ててくれる」。そんな思いを胸に、姫路で「ルーチェ音楽療法&リトミック」を主宰する井垣美奈さん。音楽療法の視点を生かしたリトミックレッスンを通して、子どもたちの成長に寄り添う“音育(おといく)”に取り組んでいます。音の力で、子どもの未来をそっと後押ししながら地域と繋がる——。姫路に響く井垣さんの活動の音色に、耳を傾けてみました。

井垣 美奈(いがき みなさん

神戸市須磨区生まれ。小学校3年生ごろから現在に至るまで、短大時代以外を姫路で暮らす。音楽科卒業後、特別養護老人ホームや病院で介護職兼音楽療法士として勤務。現在は「ルーチェ音楽療法&リトミック」を主宰し、姫路市内5カ所でのリトミックレッスンをはじめ、高齢者施設での音楽療法、自治体での健康教室、中高年向けピアノ教室など、幅広く活動している。

阪神・淡路大震災が教えてくれた“音楽の力”

3歳の頃

3歳からピアノを習い始めた井垣さんにとって、当時ピアノは“習い事の一つ”にすぎませんでした。そんな考えを大きく変えたのが、中学2年生のときに経験した「阪神・淡路大震災」です。小学校3年生頃まで暮らしていた神戸市須磨区の生まれ故郷が震災で多くのものを失い、井垣さんの中で震災は“身近に起きた出来事”として強く心に残っているといいます。 

震災によって大きな傷跡が残った須磨のまち。衣食住が整い始めた後も、人々の心には大きな喪失や不安が残りました。そんな中、少しでも人を癒やしたいと、ピアノの恩師は自ら被災地へ足を運び演奏したそうです。演奏を聴いて涙を流す人もいたと聞き、井垣さんは「音楽には人を癒やし、支える力があるんだ」と実感しました。

コンサートの様子

それまでも音楽は好きだったものの、どこか“自分のための音楽”だった井垣さん。しかしこの出来事を境に、音楽は「だれかの役に立てるもの」へと意味を変えていきます。心に寄り添い、前を向く力になる音楽。その可能性に惹かれ、井垣さんは音楽療法を学ぶ道へ進むことを決意しました。

介護・医療の現場へ——音楽療法を「必要な場所」に届ける

宮崎県にある短大

高校卒業後、井垣さんは宮崎県にある短大で音楽療法を2年間学びます。現場実習が多く、学生時代から授業の一環として、児童施設や高齢者施設、精神科などさまざまな場所で音楽療法に取り組んだと、当時を振り返ります。

音楽療法を学び、姫路へ戻った井垣さん。しかし当時は、音楽療法士として働ける環境がまだ多くはなく、思うように職を見つけるのは簡単ではありませんでした。そこで最初に選んだのが、特別養護老人ホームでの介護職です。

介護職

高齢者と日々向き合い、食事や入浴介助などのケアに携わりながら、現場の空気や利用者一人ひとりの状態を肌で理解していく時間。「音楽療法をする前に、まず介護を知らなければ」と感じた経験は、今の活動の土台になっているといいます。 

その後、広畑にある病院で音楽療法士の募集があることを知り転職。リハビリ科に所属し、医療の現場でも音楽療法を届ける立場として歩みを進めました。

介護施設、そして病院へ。生活の場と医療の場、その両方を経験してきたからこそ、相手の状態や気持ちに合わせた“寄り添う音楽”を届けられる。音楽療法を「必要な場所へ届ける」という姿勢は、今も変わらず井垣さんの活動の軸になっています。

地域と繋がり、子どもと育つ——音楽療法士の次の一歩

リトミック

介護や医療の現場で音楽療法を“大人”に届けてきた井垣さん。活動を続ける中で結婚・出産を経て、子育てと向き合う時間が増えると、音楽療法のフィールドは次第に“子どもたちのそば”へと広がっていきます。 

そのきっかけとなったのが、地域とのつながりでした。小学校での勤務や、地域の子育て支援に関わる機会に恵まれ、子どもたちや保護者と接する日々がスタート。言葉だけでは伝えきれない気持ちも、音やリズムにのせることで自然に表現できることを、現場で改めて感じたといいます。

楽器

また、保育園などで鍵盤ハーモニカやマーチングを指導する音楽事務所でも勤務。集団の中で子どもたちが音楽を楽しむ姿に触れるうち、「もっと一人ひとりの成長に寄り添った音楽を届けたい」という思いが強まっていきました。 

人と人を繋ぎ、心をほぐし、前へ進む力にもなる音楽。これまで介護や医療の現場で実感してきた“音の力”は、子どもたちの成長を支える場面でも生かせるはず——。井垣さんはそう確信し、やがて自分の教室づくりへと踏み出していきます。

「ルーチェ音楽療法&リトミック」誕生

教室の立ち上げ

学校や子育て支援の現場で子どもたちと関わる中で、井垣さんの中に芽生えたのが「もっと一人ひとりに寄り添える音楽を届けたい」という思いでした。音楽療法士として培ってきた知識と経験を、より身近な形で地域に還元できないか——。その一心から2012年、井垣さんは「ルーチェ音楽療法&リトミック」を立ち上げました。

リトミック

当時は大手の教室が主流で、個人で行うリトミック教室はまだ珍しかったそう。だからこそ大切にしたのは、“どこでもできるレッスン”ではなく、“ここでしか味わえない本物の音に出合える時間”です。グランドピアノの生演奏を軸に、子どもたちが音を聴き、感じ、表現する体験を積み重ねられる場を目指しました。

教室の様子

「音楽を嫌いにさせたくない」。その思いのもと、子どもの個性やその日の気持ちに合わせて寄り添うレッスンは少しずつ口コミで広がり、今では姫路市内を中心に5つの拠点で定期的に活動しています。

いつまでも音楽とともに——シニアへ広がる“ルーチェ”の活動

発表会

子どもたちへの“音育”を軸にスタートした「ルーチェ音楽療法&リトミック」ですが、その活動は親子の枠を超え、シニア世代へも広がっています。 

かつて介護・医療の現場で音楽療法士として経験を積んできた井垣さん。その歩みを生かし、現在は高齢者施設での音楽療法をはじめ、中高年向けのピアノ教室、自治体での健康教室などにも取り組んでいます。世代を超えて“音楽のある日常”を届けているのです。

シニア世代にとって音楽は、懐かしい記憶を呼び起こしたり、だれかと一緒に楽しむ時間を生み出したりと、心の元気につながる存在。初めてピアノに触れる人でも、自分のペースで音を奏でる喜びを味わえるのも魅力です。

スキヒメメッセージ

子どもからシニアまで——。井垣さんが大切にしているのは、年齢や「できる・できない」で線を引かず、一人ひとりの気持ちに寄り添いながら音楽を届けること。人情にあふれる温かい姫路のまちにそっと響く“ルーチェ”の音色は、今日も誰かの心を明るく照らしています。

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