Vol.6 和菓子職人 / 村井沙邦莉さん
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古きを生かし、新しきを紡ぐ和菓子職人。感謝を包んで、今日もひと菓子

1964年創業の老舗和菓子店「村井製菓」の三代目・村井沙邦莉さんは、古き良き伝統を受け継ぎながら、“いま”を生きる和菓子職人。代々受け継がれてきた自慢の味を生かしつつ、若い感性と発想力で、新旧が調和した新たな和菓子を生み出しています。「姫路城」散策のお供としてSNSで話題を集める「どらぺちーの」は、その代表作。「生まれ育ったまちと、支えてくださるお客様への感謝を忘れずに」――その思いを胸に、今日も一つひとつ丁寧に和菓子を作り続けています。そんな村井さんが描く未来の姫路の姿は?
村井 沙邦莉(むらい さほり)さん
1987年生まれ。姫路市出身・在住。市内の信用金庫に勤務後、26歳のときに実家の和菓子店「村井製菓」に和菓子職人として入る。現在は三代目として店舗を切り盛りする一方、若い世代や観光客に向けて和菓子の魅力を届けるため、InstagramやYouTubeなどのSNSも活用し積極的に発信。伝統の味を守りながら、見た目も華やかで話題性のある商品を次々と手がけており、姫路の和菓子文化を現代に伝える伝承者として活躍する。
和菓子と共に育った幼少時代

物心ついたときから、家族が営む和菓子店「村井製菓」は、彼女の“遊び場”であり“学びの場”。幼少期から慣れ親しんだ「和菓子と店」という“日常”は、今の彼女の活動の原点となっています。幼いころから店の奥でお菓子を作る姿を見たり、繁忙期にはシールを貼るといった製造を手伝ったりとお店と密に関わる中で、自然と和菓子への愛情と職人の心が育まれてきました。
今でこそ考えついたらすぐに行動に移すアクティブな村井さんですが、幼少期は3姉妹の中でもひときわ保守的で控えめだったそう。そんな性格を変えてくれたのも、一朝一夕では身につかず忍耐力と行動力が求められる「和菓子職人の道」に進んだことがきっかけだと語ります。
お店の未来を守るため、不況の波に立ち向かうことを決意

高校卒業後、大阪の大学に進学した村井さん。片道1時間半かけて毎日通学する生活を送りながらも、地元・姫路を離れたいと思ったことは一度もなかったと言います。「家族が好き。そして、都会と田舎のバランスがほどよいこのまちが住みやすくて好き」と語る村井さん。その思いは、変わることがありませんでした。
そんな中、2013年に「村井製菓」は存続の危機に直面します。大手スーパーからの発注が途絶え、売上が大幅に落ち込んだのです。両親の困惑する姿を目の当たりにした村井さんは、昼間は銀行員として働きつつ、夜は家業を手伝い、店を立て直す方法を模索しました。

やがて仕事と家業との両立に限界を感じ、銀行を退職することを決意。和菓子職人としての道に進みます。「見て盗め」という父の言葉を胸に、経験豊富な職人たちの間で腕を磨き続けました。「10年以上経った今でも、毎日が修行です」とはにかむ村井さん。その姿勢には、家業を守る強い覚悟と、和菓子への深い愛情が表れています。
時代の変化を見据えた“新しい挑戦”が転機に

「村井製菓」が苦境に立たされたのは、大量流通が進みスーパーが主流となった2010年代半ば。時代の変化を敏感に感じ取った村井さんは、従来の“卸売”中心の営業スタイルから脱却し、“ECサイト”という当時はまだ珍しい販路の導入を父に提案しました。しかし返ってきたのは二つ返事の却下。それでも諦めることなく、革新的な視点で販路拡大や新商品の開発など、何度も新しい提案を重ね続けたといいます。
そして2019年から2020年にかけて転機が訪れます。日本を襲ったコロナ禍によって営業自粛や販売縮小など厳しい状況が続き、村井さんは「新しいことに挑戦せざるを得ない社会の空気が、背中を押してくれた」と話します。「直売所が営業できないなら、ECサイトで届けよう」。そんな前向きな発想から、姉妹の協力のもと、一度は見送られた計画がついに動き出しました。

とはいえ、始動してすぐに軌道にのるわけでもなく、経験豊富な職人や二代目である父とECサイトの活用をめぐって意見が食い違う日々が続き、涙を流す日もあったそう。それでも村井さんは屈せず、休みの日も一人で出社しコツコツと新商品の開発に勤しみます。そこで生み出されたアマビエの和菓子が新聞に取り上げられ、ECサイトを通じて全国から受注が入るように。このことをきっかけに、職人たちからも徐々に認められるようになったんだとか。
老舗の新風「どらぺちーの」誕生秘話

すぐそばに世界遺産・姫路城がありながら、この近くを散策する際に“お供になるテイクアウトスイーツ”が少ない。そんな日常の気付きが、「どらぺちーの」誕生のきっかけでした。同時に「どうすれば若い世代に『村井製菓』の存在を知ってもらえるか」「SNSで話題になるような仕掛けを作れないか」と頭を悩ませていた村井さん。そこで思いついたのが、“姫路城周辺の観光時に手軽に持ち歩けて、写真映えする和スイーツ”の開発でした。

創業以来お店を支えてきた看板商品「お菊みかさ」を主役に、生クリームやチョコレートを組み合わせ、和と洋の魅力を掛け合わせたのが「どらぺちーの」。創業時から続く味と思いを大切にしながら、若い世代にも親しみやすいスタイルへとアップデートしたことで、SNSを中心に人気が急上昇しました。

「伝統を守るだけじゃなく、時代に合わせて変化することも大切」と語る村井さん。現在も「生どら」や「琥珀糖」など、見て・撮って・食べて楽しめる新感覚の和菓子を次々と生み出しています。さらに、自らが広告塔となってInstagramやYouTubeで発信する姿も話題に。そして今も老舗の枠にとらわれず、時代に寄り添いながら和菓子の新しい可能性を広げ続けています。
地元の人たちと紡ぐ新たな和菓子

「“ここでしかできないこと”“ここにしかないもの”を追い求め、作り手の顔が見える安心感や、この土地の恵みを生かした味わいを通して地域の魅力を伝えたい」。そんな思いから、近年は地元の農家さんやお店と手を取り合い、地産地消に根ざしたお菓子づくりに挑戦しています。

「イベント出店やECサイトなど、店舗を持たないスタイルが広がり、ひと昔前と比べるとどこででも商売ができる時代になりました。ですが、自分にとって大切な人がいるからこそ、私は姫路という場所をその拠点に選びました」と、姫路で夢を叶えようとしている人たちに、温かなエールを送ります。
2024年12月には母となり、人生の新たなステージへ。これからは母として、職人として、この地で新しい和菓子文化を育てていく。その姿は、まさに“守りながら、変えていく”生き方そのもの。伝統を受け継ぎながら、次の世代へと新しい形で届けていく――。村井沙邦莉さんの挑戦は、これからも続きます。

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