Vol.19 瓦メーカー取締役 / 笹田裕子さん
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100年続く伝統を、暮らしのそばへ──姫路の窯元が切り拓く「いぶし瓦」の新たな可能性

城下町として発展してきた姫路には、100年以上受け継がれてきた瓦づくりの技があります。その伝統を、屋根の上だけに留めず、暮らしの中へと拓いてきたのが「光洋製瓦株式会社」です。取締役の笹田裕子さんは、教育の現場で人と向き合ってきた経験を活かし、商品開発から体験事業、カフェの立ち上げまで、姫路というまちを拠点に、「いぶし瓦」の新しい可能性を描き続けてきました。その歩みの先にある“瓦のこれから”に迫ります。
笹田 裕子(ささだ ゆうこ)さん
1985年、姫路生まれ。瓦の製造・販売から屋根葺施工まで、自社で一貫して行う姫路唯一の瓦メーカー「光洋製瓦株式会社」取締役。瓦素材を使ったインテリアマテリアルの開発や、日本家屋のゲストハウス事業、ワークショップを中心とした観光事業などを手がける。
姫路で受け継がれてきた「いぶし瓦」

姫路市船津町は、かつて40社以上の瓦メーカーが存在した瓦の一大産地。良質の粘土が多い土地で、その特性を活かして1800年頃から瓦づくりがはじまったと言われています。現在は「光洋製瓦」ただ一社が残り、1920年の創業以来、職人の手仕事によって、いぶし銀の光沢をまとった「いぶし瓦」を作り続けています。姫路城の「平成の大修理」にも携わり、日本の伝統建築を陰から支えてきました。

「いぶし瓦の魅力は、なんといっても渋いシルバーのような輝き。この正体は炭素の膜で、職人の手作業で表面を極限までなめらかに整えることで、美しい“いぶし銀”をまとうことができます。また、通常は1日か2日で焼き上げるところ、私たちは4日かけてじっくり焼く。そうすることで目の詰まった下地ができ、割れにくい瓦に仕上がるんです」。
そう語るのは、「光洋製瓦」取締役の笹田さん。商品開発や広報、新規事業の取りまとめなど、会社の幅広い分野を担っています。笹田さんはこのまちで生まれ育ち、大学進学を機に一度は姫路を離れます。卒業後は学習塾に就職し、教室長として関西や中部地方の教室運営を任されてきました。
転機が訪れたのは、社会人5年目。家業である「光洋製瓦」を支えていた兄が退職し、東京へ出ることになったことをきっかけに、「自分もなにか力になれたら」という思いで姫路へ戻ります。当時、瓦づくりの専門知識はなく、展示会や商談を任される日々は戸惑いの連続だったと振り返ります。それでも笹田さんを支えたのは、「100年かけて繋いできた歴史を途絶えさせてはいけない」という思いでした。瓦を次の100年へ——。笹田さんの挑戦が、ここから始まります。
伝統技術を活かした新たな一歩

笹田さんが「光洋製瓦」に入社したころ、時代とともに住宅は洋風化が進み、屋根材としての瓦の需要は減少していました。そこで同社が取り組んだのが、新たな商材の開発。屋根瓦は本来、色ムラのない均一な焼き上がりが評価されますが、その色ムラやグラデーションをあえて“味わい”として活かして生まれたのが、壁材「ARARE」です。

逆転の発想をヒントに、屋根瓦がモダンな壁材に生まれ変わったことで、現代建築にも合う建材として提案できるようになりました。また、施工を伴うことから近隣にしか販売できなかった屋根瓦と異なり、壁材は流通に乗せやすく、日本全国にとどまらず海外へも販路を拡大していきました。
この「ARARE」を起点に、「いぶし瓦」は壁材にとどまらず、食器や花瓶、フォトフレームなど10種類以上のインテリアマテリアルへと変化。瓦の可能性を“暮らしの中”へと広げていきました。

「開発の中で一番大切にしているのは、“ワクワク感”。そして、伝統を“昔のもの”として眺めるのではなく、暮らしの中に取り入れながら、現代に合うものとして“進化”させていくことです」と笹田さん。楽しみながら取り組めるものを形にしていく——その積み重ねが、次の挑戦への力になっています。
来て、見て、触れてもらう場所づくり

伝統を現代へと拓いていく——その姿勢は、ものづくりの現場だけで完結するものではありませんでした。次に見据えたのは、人が集い、「いぶし瓦」に触れる場所づくり。その転換のきっかけとなったのが、コロナ禍でした。
展示会の中止や建築案件の停滞など、事業にも大きな影響が及ぶ中、笹田さんはこの期間を「会社と向き合うチャンス」と捉え、ゲストハウスや体験の場の整備に力を注いでいきます。

ゲストハウスは1日1組限定。昔ながらの瓦屋根の家屋に泊まり、「いぶし瓦」のある暮らしを体感できます。さらに、100人規模を収容できる体験場を整備し、修学旅行や校外学習の受け入れもスタート。教室長としての経験が活かされ、次世代と繋がることのできるこの取り組みには、特にやりがいを感じているといいます。

また、未就学児から小学校低学年を対象とした造形教室「きりんのへや」も、月2回ほど体験場で開催。子どもたちは、四季折々のものを五感で感じながら、ひらめいたことを絵にしたり、粘土を使って立体的に表現したりしながら、世界に一つだけの作品づくりに取り組みます。また、手がけた作品について、自分の言葉で表現する時間も大切にしています。これもまた、一児の母でもある笹田さんからの提案ではじまりました。
「今の子どもたちは、『どうしたらいい?』『これで合ってる?』と、つい正解を探しがちなんです。でも、ものづくりに正解はありません。自分で考えて、つくりたいものを形にして、それを自分の言葉で伝えていく。その面白さを伝えられる場になればと思っています」。
「いぶし瓦」をもっと身近に。姫路から広がる未来

2024年には、創業100周年を機に「CAFE koyo」をオープン。「いぶし瓦」の壁材や雑貨に囲まれた空間で、もっと気軽に瓦に触れてもらいたいという思いから、笹田さんが中心となって立ち上げました。市内外からの来訪者はもちろん、地域の人々と繋がれる場にもなっています。
「今後は、工場見学やワークショップを軸に、瓦屋根の家に泊まり、瓦に囲まれたカフェでゆったりと過ごす——そんな、見て、作って、暮らしの中で“感じる”時間まで含めて、届けていきたいと考えています」と笹田さん。

目指す先は「いぶし瓦をもっと身近に」。屋根の上だけではなく、壁に、器に、そして人が集う時間の中へ——。姫路で100年育まれてきた技は、暮らしのそばで新しい表情を見せ始めています。姫路というまちを拠点に、笹田さんの挑戦はこれからも形を変えながら続いていきます。

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