Vol.35 地域メディア編集長 / 長沼 実侑紀さん
- 更新日:
- ID:33694
だれかの“声”に耳を傾けて――巻き込み、巻き込まれながら、姫路をもっとおもしろく

「長沼さん、こんなことできへんかな」「おもしろいこと、しいひん?」。そんな相談が、今日も長沼実侑紀さんのもとへ集まってきます。データ入力業からスタートし、今やウェブ制作やECサイト支援、「姫路経済新聞」の運営、イベント企画まで、その活動は実にさまざま。目の前の人の困りごとや「やってみたい」に応え続けてきた結果、気付けば姫路のまちと人を繋ぐ存在になっていました。だれかの“声”に耳を傾けながら、巻き込み、巻き込まれ、まちをもっとおもしろく。その原動力とは?
長沼 実侑紀(ながぬま みゆき)さん
1963年生まれ。大阪府出身。結婚を機に姫路へ移住し、1999年に「ウエストデータプロ」を設立。データ入力業務からスタートし、ホームページ制作やネットショップ支援へと事業を拡大する。現在は「姫路経済新聞」の運営をはじめ、グルメ本の出版や地域イベントの企画運営など、多方面から地域活性化に携わっている。
始まりは“一台のパソコン”から

初対面の相手にも気さくに話しかけ、周囲をぱっと明るくする長沼さん。その姿からは地域を飛び回る“仕事人”の印象を受けますが、一方で3人の子どもを育て上げた母親でもあります。
もともと長沼さんは、結婚を機に生まれ育った大阪を離れ、姫路へ移住。当時は専業主婦として子育てに励む日々を送っていました。そんな長沼さんのそばにあったのが、ご主人から譲り受けた一台のパソコンです。まだインターネットが一般的ではなかった時代、独学でパソコン通信を学び、全国の人たちと交友の輪を広げていきました。
転機となったのは、その交流の中で受けた文字入力の仕事依頼でした。仕事が増えるにつれ、一人では対応しきれなくなり、近所の主婦たちに声をかけて在宅ワークグループを結成し、1999年に「ウエストデータプロ」を設立。データ入力の仕事を分担しながら、子育てと仕事を両立できる新しい働き方を模索していきます。

当時はまだテレワークやリモートという言葉も一般的ではなく、「SOHO(Small Office/Home Office)」と呼ばれる働き方が注目され始めた時代。「育児や家庭を大切にしながら仕事を両立する」ことを叶えるため、“完全在宅ワーク”を実現。そんな長沼さんの取り組みは先駆的な事例として雑誌などにも取り上げられ、多くの主婦たちの働く場づくりへと繋がっていきました。
その根底にあったのは、「子どもをないがしろにせず働きたい」という思い。仕事と育児の両立に悩みながらも、自ら道を切り拓いてきた経験は、今も長沼さんの活動の原点となっています。
“頼まれごと”から次の挑戦に

「ホームページを作れませんか?」。そんなお客さんの声をきっかけに、ウェブ制作やECサイトの制作業務へと事業を広げていくこととなります。当時はまだ企業のホームページ自体が珍しかった時代。試行錯誤を重ねながら制作に取り組む中で、いつしか“長沼さんが手がけたECサイトは売れる”という評判が広がり、受注も増えていきます。
そんな中、担当したECサイトが「全国オンラインショッピング大賞」を受賞。全国から注目を集めるきっかけとなりました。――しかし長沼さんは、その成功を自身の手柄とは考えていません。
「ホームページを作るだけでは売れません。どうすれば商品が届くのか、どうすればお客さんの思いが伝わるのか。答えはいつもお客さんが持っていました」。データ入力、ホームページ制作、EC支援――事業の形は変わっても、目の前の人の声に耳を傾け、その課題に向き合う姿勢は今も変わっていません。
「売る仕組み」から「伝える仕組み」へ

ホームページ制作やEC支援の実績を重ねる一方で、長沼さんは「どれだけ良いウェブサイトを作っても、それだけで商品が売れるわけではない」ということに気付きます。ウェブサイトはあくまで「受け皿」。大切なのは、そこへ人を呼び込むための情報発信でした。
そこで長沼さんは、事業者が自身の商品の魅力を上手に伝え、情報発信できるよう育てるため、ソーシャルメディアの講師としても活動をスタート。ホームページを作るだけでなく、その先の“伝え方”までサポートするようになります。

そんなころに出合ったのが、「みんなの経済新聞ネットワーク」でした。北は北海道、南は沖縄、さらには海外まで。地域のニュースを発信しながら、ほかのニュースサイトなどさまざまな媒体と連携する仕組みに可能性を感じた長沼さんは、その一員として「姫路経済新聞」を立ち上げます。
姫路エリアを担当する「姫路経済新聞」では、地域の日常や挑戦を記録する“まちの記録係”として、新店オープンの話題から地域イベント、まちで頑張る人たちの取り組みまで幅広く紹介しています。その取材を通じて生まれた出会いが新たな出会いを呼び、活動の幅もさらに広がっていきました。
会社経営者として、そしてライターとして。長沼さんは今日もまちを駆け回りながら、“姫路の今”を発信し続けています。
画面の向こうから、まちの中へ――グルメ本が誕生

さまざまな店舗に取材をしていく中で生まれた取り組みの一つが、「ひめじバル」や「姫路はしご酒」です。

当時、既存のバルイベントに参加していた飲食店からは、「チケット制ではお店の負担が大きい」「もっと参加しやすい形にできないか」といった声が上がっていました。長沼さんは、そうした現場の声に耳を傾けながら、飲食店と利用者の双方にとって参加しやすい仕組みづくりを模索します。
その結果たどり着いたのが、各参加店で一冊500円のクーポンブックを販売するスタイルでした。参加店舗は冊子を販売することで参加料の負担を軽減でき、クーポンブックを購入した消費者は、各店舗で魅力的な特典を受けられる仕組みです。
このイベントは回を重ねるごとに広がり、2026年で6回目を迎えました。現在では約100店舗が参加する人気イベントへと成長しています。また、2025年に始まり、現在長沼さんが手がけるグルメイベントの中で最も規模の大きい「姫路はしご酒」も。こちらも一冊500円の冊子を片手に、姫路全域を“はしごする”、つまり周遊することを目的としています。

「やりたいことがあったというより、相談されたことに応えてきただけなんです」。そう話す長沼さん。このほかにもマルシェの企画運営や地域商品のPR、兵庫県商店街振興組合連合会の事務局長として県内各地の商店街の課題解決やにぎわい創出に向けた事業の推進など、その活動の幅は年々広がっています。
ホームページ制作やEC支援から始まった仕事は、やがて人が集い、出会い、地域を知るきっかけづくりへ。取材で出会った人の声に耳を傾け、その思いを形にしてきた結果、長沼さんは情報を発信するだけでなく、人と人を繋ぎながら、まちの魅力を広げる存在になっていたのです。
巻き込み、巻き込まれながら――だれかとつくる“おもしろい姫路”

大阪出身の長沼さんですが、結婚を機に姫路へ移り住んでから、気付けば40年近くが経ちました。「好きとか嫌いとかじゃなくて、“住みやすいまち”なんです」。そう語る長沼さんが感じる姫路の魅力は、人と人との距離の近さだそうです。
だれかを紹介してほしいと相談すれば、「今度連れて行ったるわ」と実際に会う場まで用意してくれる。新しいことを始めようとすれば、応援してくれる人が現れる。情報があふれる時代だからこそ、人と人との繋がりが残る、どこか田舎らしさを持ったまちで、だれかに支えられながら今日まで歩んできたといいます。

近年は地域情報を発信するだけでなく、お弁当店の運営やアーモンドバターをはじめとした姫路の食文化を発信するカフェの立ち上げにも携わるなど、人が集う場所をつくり、地域の魅力を次の世代へ繋いでいます。

「巻き込み、巻き込まれながら」。人と人を繋ぎ、姫路をもっとおもしろくするために。今日も姫路のまちのどこかで、長沼さんの明るい声が響いているかもしれません。

魅力のご紹介
エリア紹介
くらし
移住を応援
ふるさと納税