Vol.40 木工・家具職人 / 藤原 秀俊さん
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木や使い手が紡いできた「物語」が息づく、オンリーワンの家具づくり

気鋭の木工・家具職人として、今注目を集めている藤原秀俊さん。確かな技術と独自の感性を生かしたプロダクトが、イベントや口コミを通じて評判を呼んでいます。コロナ禍をきっかけに人生を見つめ直し、さまざまな経験を経てたどり着いたのは、心からやりがいを感じられる日々でした。藤原さんのモノづくりに込める思いや、職人としての原点をひも解きます。
藤原 秀俊(ふじわら ひでとし)さん
1984年、京都府生まれ。幼少期より姫路市で育つ。大手飲食チェーン店での勤務を経て京都の老舗和菓子店へ転職し、コロナ禍を機に姫路へUターン。地元の銘木店に就職し、木に関する知識や木材の加工技術を習得する。2023年に独立し、木工・家具工房「木犀(もくせい)」を開業。無垢材を使用した個人向けオーダー家具、店舗什器、木工雑貨などを製作する傍ら、ワークショップの開催や木に関連する地域プロジェクトにも参画し、活動の場を広げている。
空間に静かな存在感を放つプロダクト

姫路駅前の体験型複合施設「MONZEN(モンゼン)」。店内のフードスタンドにさりげなく置かれた洋菓子用のショーケースは、藤原さんが製作したものです。同施設の設計に携わった建築士の土田昌平さんが、そのセンスと技術力、丁寧な仕事ぶりに信頼を寄せ、「デザインも仕様も全てお任せで」と依頼。藤原さんはタイトなスケジュールの中で図面作成から製作までをスムーズに進め、土田さんの期待に全力で応えました。フレーム部分と底板には同施設の玄関建具にも使われている無垢のオーク材を採用し、空間との一体感を意識しながら機能美を追求。シンプルで洗練された佇まいが、主役であるケーキや焼き菓子の魅力を引き立てています。
「思いがけず姫路の玄関口にある施設の什器を製作する機会に恵まれ、地元で育った者として大変光栄でした」と藤原さんは感慨深げに振り返ります。
モノづくりの魅力に目覚め、独立を決意

昔は木にも家具にもあまり興味がなかったという藤原さん。その経歴は少し異色です。学生時代のアルバイト先だった大手飲食チェーン店へ卒業後に就職し、中・四国、九州エリアの新規出店責任者として11年間勤務。子どもの誕生を機に転勤や出張の多い仕事に見切りをつけ、京都の老舗和菓子店に転職します。同店でも新規出店や店舗マネジメントなどを担い、順調なキャリアを築いていました。ところが、コロナ禍で状況は一変。飲食業界の先行きに危機感を抱き、暮らしと心の安定を求めて姫路へUターンすることに。けれども多くの業界が打撃を受け、求人が減少し、再就職先はなかなか見つかりません。焦りと不安が募る中で、唯一受け入れてくれたのが地元の銘木店でした。

当時は木の知識に乏しかったものの、職場の先輩たちから素材の特性について学び、同じ樹種でも育った環境や部位によって表情が異なることを知ると、その奥深さに魅了され、一気に木の世界へのめり込んでいきます。ダイニングテーブルやシューズボックスなどの家具づくりにも携わる中で、木からモノを生み出すおもしろさとやりがいに目覚め、38歳の時に独立を決意しました。
自然と愛着が育まれる家具を生み出す

一つひとつの素材と向き合い、時間をかけて丁寧に作り上げていくオーダーメイド家具の世界は、大量消費や薄利多売に傾倒する大手飲食チェーン業界とは対照的。その違いは藤原さんにとって新鮮に映り、仕事を通して新たな気づきをもたらしました。
「自分の暮らしに合った寸法や好みの木材で仕立てた家具は、初期費用こそかかっても長く快適に使え、自然と愛着も深まることを実感しました。そんな使い手の人生に寄り添う家具を自らの手でゼロから生み出したいという気持ちが高まり、思い切って独立へと踏み出すことにしたのです」。
銘木店で働き始めてまだ2年。周囲からは「本当に1人でやっていけるのか」と心配の声も上がりました。けれども、藤原さんに迷いはありませんでした。独立前から自身のSNSを通じて少しずつ仕事の依頼が届き始め、自分の選んだ道に可能性を感じていたからです。そして2023年、「木犀」の看板を掲げ、木工・家具職人としての活動が本格的にスタートしました。

現在は、前職から繋がりのあった「井口床材銘木」の工房を間借りし、無垢材を用いた家具づくりに取り組んでいます。木の生育の過程で生じた節や荒々しい木目はあえて隠さず、素材の個性としてありのまま形に落とし込むのが藤原さんの真骨頂。解体された家の梁(はり)や柱を使って椅子を製作したり、持ち込まれた愛用の机をリメイクして新たな家具へ作り替えたりと、使い手の思いに寄り添った要望に柔軟に対応できることも大きな強みです。
「長く使われてきた家具や解体された住まいの建材を加工して新たな家具や雑貨を生み出す際は、刻まれた傷や落書き、元の形の一部をデザインとして生かすことも大切にしています。手にした瞬間に以前の家具や住まいの紡いできた“物語”が感じ取れると、新しいモノでありながらも使い始めから愛着が湧くと思うんです」。
家具に宿る使い手の思い出や木が歩んだ歴史も引き継ぐことが、藤原さんのモノづくりにおける美学。その奥に息づいているのは、老舗和菓子店に勤めていたころの京都での日々です。古い町家に暮らす中で使い込まれた床板や黒く艶を帯びた階段に触れ、経年変化によって生まれる木の美しさを知りました。祇園祭では山鉾の組み立てを手伝い、祭りを支える職人の技への誇りと装飾品が重ねた歴史の重みを肌で感じたといいます。こうした経験が、“時を重ねたモノの価値”を見つめる視点を育みました。Uターン後は、その眼差しを姫路のまちにも向けています。
“古き良きモノ”を愛おしみ、生かすまちづくりを

近年、持続可能なまちづくりに向けた整備が進む姫路。藤原さんは景観が磨かれ利便性が高くなることを喜ぶ一方で、昔ながらのまちの風情が失われつつあることに一抹の寂しさを覚えています。
「僕が小さいころは船場川沿いにレンガ造りの工場や倉庫が建ち並び、まちの景色にどことなく“味わい”が感じられました。もし今もレンガ倉庫が現存していたら、僕らのような若手職人たちが集い、切磋琢磨する“職人横丁”のような場として活用する未来もあったかもしれません。新しさにとらわれることなく、長くまちに残る“古き良きモノ”も大事にする心を市民みんなが持ち、“姫路らしさ”として生かすことができれば、より魅力的なまちになるのではないでしょうか」。
姫路を象徴するプロダクトを創造したい

京都での暮らしの中で熟練職人たちの見事な仕事ぶりに心を動かされた経験から、「まだ実力が伴っていない駆け出しの自分が、自ら“職人”と名乗るのはおこがましい」という藤原さん。そして、「今は任された一つひとつの仕事と懸命に向き合い、経験を重ねていきたい」と力を込めます。その謙虚な言葉からは、モノづくりへの誠実な姿勢が伝わってきます。
目の前に掲げる目標は、地域の人が木や家具のことで困ったときに気軽に頼れる存在になること。遠くを見つめながら、その視線の先にある夢についても明かしてくれました。「時を経ても姫路で愛され続ける“まちのシンボル”となるようなプロダクトを、いつか地元のクリエイターたちと共に作り上げてみたいです」。目指す職人像へ、一歩ずつ着実に歩みを進めていきます。

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