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Vol.47 地域事業家 / 赤松 伸哉さん

  • 更新日:
  • ID:34343

なんでもなかった地元が、守りたい場所に。姫路で見つけた“道草”の楽しみ方

赤松さんの写真

姫路を代表する地場産業・姫路皮革のアトリエをはじめ、飲食店や宿泊施設の運営、朝市の開催など、姫路駅西エリアを中心に幅広く活動する赤松さん。もともとは「姫路が特別好きだったわけではない」と話しますが、地元の人や地場産業との出会いを通して、知らなかった姫路の魅力に気付いたといいます。「観光で訪れる人にも、もっと深く姫路を体験してほしい」――その思いの裏側とは?

赤松 伸哉(あかまつ しんや)さん

1996年、姫路市出身。岡山の大学に進学後、休学中に東京のスタートアップ企業で長期インターンに参加し、大阪や京都でも経験を積む。京都で体験したワークショップをきっかけに姫路レザーと出合い、2020年に姫路駅西エリアでアトリエ兼喫茶店「tomalier(トマリエ)」をオープン。駅西のまちづくり協議会の会長を務めながら、おにぎり専門店や宿泊施設の運営、朝市の運営など幅広く活動している。

姫路を離れて見えてきた、地元のこと

スタートアップ企業で長期インターンに挑戦していたときのようす

高校卒業後、姫路から岡山の大学へと通いながら、経済学を学んだ赤松さん。大学3年生のころ、「実践的なビジネスを学びたい」と休学し、東京のスタートアップ企業で長期インターンに挑戦しました。

その後、関わっていた事業の関西進出に伴い大阪や京都へと拠点を移し、毎日のように足を動かして、営業力と行動力を培ったといいます。そして、インターンと併行して、大学入学時から続けていた姫路での塾講師のアルバイトも継続。そこで、子どもたちと接する中で感じたのが、子どもたちが将来を考える上での「選択肢の少なさ」でした。

「都会に出て、いい大学に入って、いい会社に就職する。それも一つの道ですが、いろいろな選択肢を知った上で、自分の道を選んでほしいと思ったんです」。

小学生を対象とした教育コミュニティでのようす

そこで仲間と、姫路の小学生を対象とした教育コミュニティを立ち上げます。宿題のサポートだけでなく、農家や福祉施設を訪ねたり、アートやプログラミングに携わる人から話を聞いたり。姫路にいながら、普段出会えないような人と出会い、いろいろな経験ができる場所をつくりました。

こうした活動を通して地域の人と関わるうちに、赤松さん自身も、それまで気付かなかった地元の魅力に目を向けるようになります。

姫路の「革」が、まちを見る目を変えた

皮革工場でのようす

そんな中、大きな転機となったのが、姫路の地場産業である「革」との出合いでした。

ある日、旅先の京都で何気なくレザークラフトのワークショップを体験し、ものづくりの楽しさに触れた赤松さん。そこで職人から、姫路が革の産地であることを聞かされ、地元で皮革産業が盛んなことを初めて知ります。

そこからワークショップに何度か足を運ぶうちに、「革のものづくりを地場産業だけで終わらせずに、観光体験の一つにできないか」と考えるように。持ち前の行動力を武器に、自ら何軒もの工場へ足を運んだり、染色工場でアルバイトを積んだりしながら、革の種類や製造工程などを学びました。

白鞣し革の制作過程

中でも赤松さんが惹かれたのが、かつて姫路の市川沿いで作られていた「白鞣し革(しろなめしがわ)」。原皮を川の流水にさらして毛を抜き、塩となたね油を使い、手足を使って鞣していく伝統的な製法で作られる白い革です。その技術や文化を現代に復元させようと励み、現在も仲間と共に、商品開発などその先の取り組みも考えています。

こうした姫路の革の奥深さと可能性に引き込まれていった赤松さんは、大学には戻らず、姫路でものづくりの道へ進むことを決意。そして2020年8月、姫路駅西エリアにアトリエ兼喫茶店「tomalier 」をオープンしました。


店づくりから、“まちづくり”へ

姫路駅西エリアにオープンしたアトリエ兼喫茶店の外観

革をきっかけに始まった赤松さんの挑戦は、店を構えたことで、次第に地域へと広がっていきます。当時の駅西エリアは空き店舗が目立ち、まちのにぎわいづくりが課題の一つでした。一方、姫路全体に目を向けると、観光客が姫路城を訪れてそのまま次の目的地へ向かう「通過型観光」も課題とされていました。そこで赤松さんが考えたのが、姫路の革を使ったものづくり体験。革小物のワークショップを通して、観光客がまちで過ごす時間を少しでも長くできないかと考えたのです。

「より気軽に足を運んでほしい」との思いでアトリエに喫茶店を併設したことで、観光客だけではなく、地域の人がコーヒーを飲みに訪れたり、集まりに使ったりと、世代を超えて人が集う場所になっていきました。

毎月開催している朝市のようす

店を始めると近隣の人との交流も深まり、その縁から毎月の朝市の開催など、地域に根差した取り組みにも力を入れるように。朝市では、このエリアで営業する店に加え、まちの空きスペースを活用し、実店舗を持たない人にも出店の機会を提供。そうすることで、人を呼び込み、新たな繋がりやにぎわいを創出しました。

また、学生時代からイベントでの繋がりがあったリノベーション会社から「宿の運営を任せたい」と声がかかり、2024年4月には一棟貸切の宿「SOUQ(スーク)」の運営にも携わるように。予約管理や宿泊客へのまちの案内などを担い、「滞在型観光」の実現に向けて、活動の幅をさらに広げています。

受け継いだ場所で、まちの味を届ける

アトリエの隣でこんにゃく店を営んでいた「よっちゃん」さん

そんな地域との関わりの中で出会ったのが、アトリエの隣でこんにゃく店を営んでいた「よっちゃん」です。喫茶店の常連さんで、昔の話を聞かせてくれたり、他のお客さんも交えながら、年代を超えて親交を深めていきました。

「よっちゃん」さんとの思い出を語る赤松さん

その関係は単なる“常連さん”にとどまらず、よっちゃんが亡くなった際には、赤松さんが葬儀に友人代表として呼ばれるほど。そんな二人の関係をそばで見ていたご家族から、「この場所を使ってほしい」と声をかけてもらったことをきっかけに、よっちゃんが大切にしてきた場所で、新たに「吉梅(よしうめ)商店」の名を掲げ、おにぎり屋としての挑戦が始まります。

新たに挑戦をはじめたおにぎり屋さんでのようす

この場所で何を始めるか模索する中で、赤松さんが目を向けたのが、周辺に朝ごはんやお昼ごはんを食べられる店が少ないことでした。そこで「忙しい仕事の合間でも、ぱっと立ち寄って食べられるものを」と考え、たどり着いたのがおにぎりでした。

「おにぎりの具材に使う肉や魚、野菜、そして味噌汁に使う味噌や豆腐なども、すべて駅西にある商店でそろう。このまちの魅力をシンプルに、そして最大限に伝えるには、おにぎりが一番だと思ったんです」と、どこかうれしそうに語る赤松さん。よっちゃんとの縁から生まれた店には、赤松さんなりの“まちの繋ぎ方”が詰まっています。

人生も、旅も、時には“道草”を

インタビューのようす

今でも時折、塾やコミュニティで関わっていた子どもたちが、赤松さんのもとに勉強を教わりに来たり、ふらりと遊びに来たりしています。そんな子どもたちの成長を見守る中で、赤松さんが次なる目標の一つに掲げているのが、若い世代に「姫路で働く」という選択肢を増やすことです。

「僕自身、学生のころは“姫路は地方で選択肢が少ない”と思っていました。でも今は、やりたいことに挑戦できるまちや会社を自分たちでつくればいいと思っています。姫路には、若い人の挑戦を地域全体で応援する雰囲気がある。そして、小さいまちだからこそ人との関わりも濃く、その繋がりが背中を押してくれる。姫路は“好きなことを好きにやろう”が叶う場所なんです」。

道草を楽しむ

そして、赤松さんが大切にしているのが「道草を楽しむ」こと。それは姫路を訪れる人へのメッセージであると同時に、自身の生き方にも重なります。

大学を休学して飛び込んだインターン、子どもたちとの活動、偶然出合った革のものづくり、そしてよっちゃんとの出会い。一見、寄り道にも思える経験や出会いのすべてが、今の赤松さんに繋がっています。

姫路を訪れる人にも、目的地だけを目指すのではなく、少し寄り道をして店に立ち寄ったり、地域の人と話したり、その途中にある出会いを楽しんでほしい――。「人生も、旅も、時には道草を」。思いがけない出会いの先に、まだ知らない姫路が待っているのかもしれません。

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