Vol.44 民泊・ギャラリー運営 / 森 真一さん
- 更新日:
- ID:34160
人が集い、未来へ繋がる家へ――10代続く古民家の再生に込めた思い

古き良き街並みが数多く残る姫路市広畑区蒲田に、築180年以上の歴史を刻む古民家があります。10代にわたって受け継がれてきたその家は、現在、貸しスペース「コントレイルギャラリー」と民泊「RE KAMATA」として新たな役割を担っています。その再生に尽力したのが、家主である森さん。退職後、先祖代々の思いを胸に取り組んだのは、家族の歴史と日本の伝統が息づく古民家を、未来へ繋いでいくことでした。
森 真一(もり しんいち)さん
1959年生まれ、姫路市出身。高校卒業後、航空大学校へ進学。一度は大手通信会社に事務職として就職した後、26歳で「日本エアシステム(現・日本航空グループ)」に入社し、鹿児島や福岡、東京などで旅客機パイロットとして33年間従事。退職後、実家に戻り、生まれ育った古民家の再生事業に取り組む。現在は、地域住民と協力して展示会やワークショップなどのイベントを開催し、人と地域を繋ぐ場づくりに取り組んでいる。
父から受け継いだ「家を残してほしい」という願い

森さんの実家は、10代にわたって受け継がれてきた昔ながらの日本家屋。小学生までは母屋で、その後は高校卒業まで敷地内の離れで暮らしたそうです。
大学進学を機に姫路を離れ、夢だったパイロットの道へ。宮崎の航空大学校を卒業するも、当時は航空会社の採用がほとんどなく、一度は大手通信会社へと就職しました。

その後、航空会社の採用再開というタイミングに恵まれ、念願だったパイロットとしての人生が始まります。鹿児島、福岡、東京と各地で暮らしながら、およそ33年間、国内線の操縦桿を握り続けました。
そんな森さんが60歳で退職し、真っ先に向き合ったのが実家でした。亡き父は生前から繰り返し、この家を後世に残してほしいと言っていました。「10代続く家を自分の代で終わらせるわけにはいかない」。その思いが、古民家再生の原点になりました。
年齢を重ねて気付いた、古民家の本当の価値

「幼いときは、古民家に対して特別魅力を感じていたわけでもなく、むしろ隙間風の入る古い家で、正直住みやすい家ではなかったですね」と当時を振り返る森さん。その見方が変わったのは、年齢を重ね、日本各地で暮らすようになってから。古民家の価値を実感し、実家には日本家屋ならではの趣が細部にまで残されていることに気付きます。「この家の価値を失わせてしまうのはもったいない」という思いから、できる限り昔の姿を残しながら、リノベーションすることを決意しました。
友人から、古民家再生を数多く手がけている神戸の建築事務所を紹介してもらい、家の改修にかけた期間は約2年。当時はまだ東京で暮らしていたため、姫路へ何度も足を運び、幾度も相談を重ねながら一つひとつ丁寧に工事を進めました。

一度は縁側の窓をアルミサッシに替えていたものの、古民家らしい表情を大切にしたいと木製建具へ戻し、古民家の象徴である虫籠窓(むしこまど)や陶器の便器もそのまま残しました。さらに、「世界の人にも誇れる家にしたい」との思いから、なぐり加工や漆喰など、日本の伝統技法も随所に取り入れました。
(虫籠窓とは…屋内へ風や明かりを取り入れ、火災の延焼を防ぐため設置される小窓。)
完成後に訪れた家族や親戚からは、「また、みんなで集える場所ができた」と喜びの声が上がりました。その笑顔を見て、森さんもこの家を残してよかったと改めて実感したといいます。
そして、再生した家をギャラリーや民泊として活用するだけでなく、2階を自身が住む居住スペースとして改修したのもこだわりの一つ。"住み継ぐ"ことこそが、この家への恩返しであり、何よりの愛情であると森さんは考えています。
家を“人が集まる場所”へ

一般に開放されている「コントレイルギャラリー」では、絵画展や模型展など、多くのイベントが開かれ、過去には1000人近い来場者が訪れたこともありました。また、民泊「RE KAMATA」としても活用され、国内外から訪れる人々が、日本家屋ならではの趣を体感しています。

実は長年の趣味として、飛行機の模型やミリタリージオラマ、絵画などを手がけてきた森さん。展示会がないときは、自身の作品をギャラリースペースに展示しています。また、月に数回は、「よりみちカフェeni」がこの場所を借りてカフェを営業。地域の人が気軽に集い、森さんの作品を楽しめる場にもなっています。

中学生のころから模型コンテストに挑戦し、全国規模のコンテストで数々の賞を受賞。模型雑誌にも作品が掲載されるなど、その腕前は全国的にも知られる存在です。特に得意なのは、模型単体ではなく地面、建物、人物をリアルに表現した「ジオラマ」。
「飛行機だけ置いても見てもらえない。でもジオラマにすると、みんな立ち止まって見てくれるんです」。そんな"物語のある作品づくり"は、古民家を守る姿勢ともどこか重なります。
ギャラリーと民泊事業を始めてから、人との繋がりが何倍にも広がったという森さん。「一人でこの家にいるよりも、たくさんの人でにぎわっているほうが、家も喜んでいると思います」とうれしそうに微笑む表情からは、この家を“人が集う場所”として未来へ繋いでいきたいという思いがあふれていました。
古民家に託す、未来への思い

現在は姫路城のプラモデル制作にも挑戦し、その魅力を多くの人へ伝えています。今後は「RE KAMATA」をさらに活用し、姫路城のプラモデルづくりが体験できるデイユースプランもはじめていくそうです。
全国各地の城を見てきた森さんですが、「姫路城は規模も美しさも別格」と話します。
「だれがこんな設計を考えたのだろうと思うくらい、本当に美しい城です。十分な工具や重機もなかったような時代に、これほどの建築を成し遂げた先人の方々は本当にすばらしい。この家も、姫路城のように何百年と人に愛され、世界に誇れる存在になっていけたらうれしいですね」。

森さんにとって、この古民家は単なる建物ではありません。10代にわたって受け継がれてきた家族の歴史そのものであり、人が集い、笑顔が生まれる場所として、地域の未来をつくる存在になりつつあります。
これから先も100年、150年と歴史を刻み続けられるように――。森さんは今日も、大切な家とともに、新たな出会いを迎え続けています。

魅力のご紹介
エリア紹介
くらし
移住を応援
ふるさと納税