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Vol.43 洋菓子店経営 / 吉岡 有里さん

  • 更新日:
  • ID:34158

起業家を目指した先にあった、幸せを届ける仕事

吉岡さんの写真

「ケーキ屋をやりたかったわけではないんです」――そう語るのは、姫路で25年以上愛され続ける洋菓子店「フロマージュ」のオーナー・吉岡さん。実は、ケーキづくりの経験がないなか洋菓子店を開業し、数々の壁を乗り越えながら店を育ててきました。営業職、家庭教師事業、フランチャイズ、そして独立――。学び続ける姿勢と、人との出会いを大切にしてきた歩みの先にあったのは、“お菓子を通して幸せな時間を届けたい”という変わらない思いでした。

吉岡 有里(よしおか ゆり)さん

1967年、加西市生まれ。姫路市在住。大学卒業後、大手広告会社へ入社し営業職として勤務。「いつか自分で会社をつくりたい」という思いから退職後は家庭教師派遣事業を立ち上げる。その後、縁あって洋菓子業界へ転身し、1993年に姫路初となる「サンタクロース」のフランチャイズ店を開業。独立後は洋菓子店「フロマージュ」を立ち上げ、未経験から菓子づくりを学びながら地域に愛される店へと育て上げた。現在は商品開発や経営を担い、スタッフとともに新たな挑戦を続けている。

行動力が切り開いた第一歩

インタビューのようす

「もともとケーキ屋になるつもりなんて、全然なかったんです」。そう穏やかに笑うのは、姫路で人気の洋菓子店「フロマージュ」のオーナー・吉岡さん。今でこそ多くのファンに愛される店を営んでいますが、その原点は意外にも洋菓子の世界ではありませんでした。

大学卒業後に入社したのは大手広告会社。当時から「いつかは自分で会社をつくる」という夢を抱き、起業を見据えて入社し、配属先は営業職でした。「同期も独立志向の人ばかりで、会社員を一生続けるという感覚はあまりありませんでした」と当時を振り返ります。

その原点は、高校時代までさかのぼります。アルバイトが禁止されていた反動もあり、大学へ進学するといくつもの仕事を掛け持ちする毎日。朝6時からサービスエリアで働き、次は歯科助手の仕事を終えると、そのまま喫茶店の閉店作業へ向かう日々。それでも苦にならなかったのは、「働いた分だけお金になるのがうれしかった」から。人と接し、現場で経験を積むことそのものが楽しかったといいます。

このころに培われた行動力は、会社員時代にも発揮されました。求人情報誌の営業として担当エリアを靴底がすり減るまで歩き回り、何度断られても足を運び続ける毎日。「契約をいただくには、まず相手の話を聞き、何に困っているのかを知ることが大切だと教わりました」。その経験は、今も経営者としての土台になっています。

営業成績にも恵まれ、仕事にやりがいを感じていた一方で、「会社員として終わるつもりはなかった」と吉岡さん。入社から2年後、当初の目標通り退職し、地元へ戻る決断をしました。

教育格差をなくしたい――その思いから始まった最初の挑戦

家庭教師派遣事業のイメージ

画像はイメージです

地元・加西へ戻った吉岡さんが友人と立ち上げたのは、家庭教師の派遣事業でした。当時は学習塾が少なく、「塾に通わせたくても送迎が難しい」という保護者の声を数多く耳にしていました。「教育を受ける環境によって、子どもたちの学ぶ機会に差が生まれている。その状況を何とかしたかったんです」と話します。

中学受験を目指す家庭からの相談も多く、事業へのニーズは確かにありました。しかし一方で、講師の確保は容易ではなく、人材不足という壁に直面。事業を広げる難しさを実感する日々だったといいます。

約3年間、事業を続ける中で、新たな転機が訪れます。知人から紹介されたのが、当時全国に店舗を展開していた洋菓子店「サンタクロース」のフランチャイズ事業でした。もちろん吉岡さんに製菓の経験はありません。それでも迷わず挑戦を決めたのは、「お菓子屋をやりたかった」のではなく、「商売をしたかった」からでした。

守られた看板から、自らの看板へ

起業時の思いをはなす吉岡さん

27歳で姫路初となる「サンタクロース」のフランチャイズ店をオープンした吉岡さん。経営は順調で、店は軌道にのっていきました。

しかし、年月を重ねるにつれ、一つの思いが大きくなっていきます。「商品もお店づくりも、自分たちの考えで一からつくり上げ、もっと自分たちらしいお店をやりたい」。その気持ちは次第に強くなり、フランチャイズという枠組みの中では実現できないことも増えていきました。

吉岡さんにとって大きな決断でしたが、自らのブランドを立ち上げる道を選びます。こうして誕生したのが、「フロマージュ」でした。

自分たちの名前で勝負するということは、大きな責任を伴う一方で、本当に届けたい味や世界観を形にできる喜びでもありました。

「フロマージュ」は、こうして吉岡さん自身の想いが詰まったブランドとして、新たな歩みを始めたのです。

「おいしい」の先にあるものを求めて

自ら立ち上げたお店の外観

「フロマージュ」として歩み始めた吉岡さんたちを待っていたのは、「商品をどうつくるか」という現実でした。ケーキづくりは未経験。そこで吉岡さんは、スタッフ2人と始発電車に乗り、大阪までプリンとシュークリームの製法を学びに通います。

しかし、それだけでは店は成り立ちません。さらに「プリンとシュークリームだけでは、お店はできない」。そう助言を受け、今度は紹介された土山の洋菓子店へ。スポンジの焼き方を教えてもらう代わりに、昼間は販売を手伝い、朝は仕込みや製造を一緒に行いながら技術を身につけていきました。

教科書になったのは、数少ない専門書でした。本を読み、試作を重ね、わからないことは自分たちの手で一つずつ確かめていく。素人だからこそ、学ぶことをためらいませんでした。

お店で提供している商品の写真

それでも、開業当初は夜通しケーキを作り続けても朝の開店に間に合わず、スタッフとともに朝まで厨房に立ち続ける日も珍しくありませんでした。当時、一緒に働いていた二人を心配した親御さんが迎えに来ることもあったといいます。今振り返れば無茶な毎日。それでも、同じ目標に向かって走り続けた仲間がいたからこそ、乗り越えられた時間でした。

作れないものがあれば、そのままにせず、自ら足を運んで学ぶ。それが創業以来変わらない吉岡さんの姿勢です。開業以降も神戸や洋菓子の本場・パリを訪れ、自ら味を確かめながら製法を学んできました。しかし、その経験で得た最も大きな収穫は、技術だけではありませんでした。

数々のお菓子を食べ比べる中で実感したのは、日本人には日本人の味覚に合うお菓子があるということ。本場をまねるのではなく、日本人が「また食べたい」と思える味を追求すること。それこそが、自分の目指す菓子づくりなのだと確信したといいます。

仲間に任せる勇気が、新たな未来を切り開く

商品をラッピングするようす

創業から約10年間は、自ら製造の最前線に立ち続けてきた吉岡さん。現在は商品開発やラッピング、経理など経営全般を担いながら、クリスマスケーキや特注ケーキなど、自身の得意分野では今も現場に立っています。

新商品の構想を考え、スタッフが形にする。そんな分業ができるようになった今も、色味や仕上がりへの妥協は一切ありません。細かな修正を重ねるのは、お客様に届けるものだからこそ、納得できる品質にしたいという思いがあるからです。

お店を支える仲間たちとの写真

そんな吉岡さんを支える存在となっているのが、信頼する若いスタッフの活躍です。これまで取材やイベントへの参加を控え、自ら前に出ることはほとんどありませんでした。しかしスタッフの後押しもあり「今はお店の魅力や思いを発信することも大切な時代」と考え、新たな挑戦を次々と提案。吉岡さんも、その背中を少しずつ預けられるようになっていきました。

一人で店を支えてきた時代から、仲間とともに未来をつくる時代へ。「フロマージュ」は今、大きな転換期を迎えています。

笑顔と幸せの真ん中にあるお菓子を

お店のようす

お菓子は、家族や友人が集まり、笑顔が生まれる場所に寄り添うもの。そんな何気ない日常の幸せを支える存在であってほしい――。創業以来変わることのないその思いは、今も一つひとつのお菓子づくりに息づいています。お菓子を通してだれかの笑顔や幸せな時間に繋がること。それこそが、吉岡さんにとって何よりのやりがいです。

笑顔と倖せの真ん中に

加西で生まれ育ち、結婚を機に姫路へ。神戸への憧れを抱いた時期もあったそうですが、今では「姫路が一番好き」と話します。自然があり、食べ物がおいしく、暮らしやすい。都会すぎず田舎すぎない、このまちの心地よさを実感しているからです。

知識も経験もないところから始まった挑戦は、多くの人との出会いに支えられながら、地域に愛される洋菓子店へと成長しました。

そして今、その想いは新しい仲間へ受け継がれ、次の世代へと繋がろうとしています。吉岡さんが届け続けてきたのは、お菓子そのものではありません。

大切な人と過ごす時間や、日常にそっと生まれる笑顔。その幸せの真ん中に寄り添う一つひとつのお菓子を、今日も変わらず、この姫路の地から届けています。

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