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Vol.42 金継ぎ師 / 高田 紗良さん

  • 更新日:
  • ID:34094

割れた器も、夢も、もう一度継ぐ。21歳の金継ぎ師が選んだ姫路という場所

高田さんの写真

「割れたから捨てる」のではなく、「直して、また使う」。そんな、日本で古くから大切にしてきた“ものを慈しむ心”を映し出す日本の伝統技法「金継ぎ」を、もっと身近なものにしたいと活動するのが、21歳の若き金継ぎ師・高田紗良さんです。高校卒業後、金継ぎの技術を習得するため、単身で福岡県へ。約1年間の修業を経て、2026年1月、姫路市内にある寺院の一角に金継ぎ工房「福音(ふくね)」をオープンしました。「挑戦を育ててくれたまち」。そう話す高田さんが姫路で踏み出した“新たな一歩”に迫ります。

高田 紗良(たかた さら)さん

2005年生まれ、兵庫県稲美町出身。父親の影響で幼いころから骨董や器に親しみ、高校在学中に金継ぎと出合う。高校卒業後、単身で福岡県へ渡り、約1年間の修業を経験。地元へ戻った後、2026年1月に姫路市内の「本徳寺」の一角で金継ぎ工房「福音(ふくね)」を開業した。器の修復をはじめ、金継ぎ教室や出張ワークショップなどを通して、金継ぎの魅力を幅広く発信している。

「金継ぎ師」を志し、単身で福岡県へ

インタビューのようす

兵庫県稲美町出身の高田さん。中学生のころまでは、「英語を使って、海外の人と関わる仕事がしたい」と、貿易関係の仕事に憧れていたといいます。そんな彼女の夢が大きく変わったのは、高校在学中のことでした。

もともと、骨董や器を好む父親の影響で、幼いころから陶磁器に親しんでいた高田さん。父親と一緒に骨董品店を巡ったり、器について調べたりする中で、「金継ぎ」という技法に出合います。

高田さんの作品

「これを仕事にしたい」。金継ぎの奥深い世界に心を惹かれた高田さんは、大学へは進学せず、高校卒業後は本格的に技術を学ぶ道を選びました。

全国には金継ぎを学べる教室が数多くありますが、高田さんが探していたのは、観光客向けの一度きりの体験ではなく、時間をかけて技術を身に付けられる場所。インターネットで情報を集める中で見つけたのが、福岡県で夫婦が営む工房でした。

面識もない師匠に自ら連絡を取り、「修業をさせてほしい」と思いを伝えた高田さん。その熱意が届き、福岡県で金継ぎを学ぶ日々が始まりました。修業中は、ひたすら金継ぎと向き合う毎日。工房が休みの日にも自宅で作業を続け、約1年間にわたって技術を磨きました。

高田さんの工房でのようす

「思っていた以上に工程が多くて、本当に難しかったです。でも、やればやるほど夢中になって、気付けばどっぷり魅了されていました」そう話し、少し照れたようにはにかむ高田さん。持ち前の器用さと集中力を生かしながら、一つひとつの工程を着実に身に付け、修業を終えた後は地元・稲美町へ戻りました。

お寺との偶然の出合いが、新しいスタートに

高田さんの工房「福音」の外観

稲美町へ戻った高田さんは、自分の工房を構えるため、物件探しを始めます。そこで偶然出合ったのが、現在工房を構える姫路市内の「本徳寺」の境内でした。

もともと、お寺と特別な縁があったわけではありません。不動産情報を通じてテナントが募集されていることを知り、初めて現地を訪れたそう。歴史を感じる建物と、静かで落ち着いた空気に触れた瞬間、「ここしかない」と直感し即決。2026年1月に工房「福音(ふくね)」が誕生しました。工房の名前は、実家で飼っている愛猫「福」と、「福をもたらす場所でありたい」という願いを込めて命名。言葉の響きの美しさも大切にしたといいます。

金継ぎ工房のパンフレット

工房では、欠けたり割れたりした器の修復依頼を受け付けるほか、金継ぎ教室も開催。漆を使わず、一日で作品を完成させて持ち帰ることができる簡易的な金継ぎの体験教室から、複数回にわたって通い本漆を使った本格的な教室まで、完全予約制で行っています。

欠けた器を“金で継ぐ”。そこから始まる新たな物語

高田さんが制作した金継ぎ作品

持ち主の記憶や思い出が宿る、大切な器。金継ぎは、壊れた器をただ元の状態に戻すのではなく、割れや欠けさえも新たな個性として生かす技法だと、高田さんは語ります。

しかし、その美しさの裏側には、長い時間をかけた繊細な手仕事があります。最初に接着してから1から2週間ほど乾かし、次の工程へ進んでは、再び乾かす。その作業を何度も繰り返し、一つの器が完成するまでには1カ月以上かかることも珍しくありません。

制作のようす

また、割れ方や欠け方も、器によってさまざまです。欠けた部分のパーツが残っていない場合は、その形に合わせて一から補うことも。一つひとつの状態を見極め、それぞれに適した方法で向き合う、根気と集中力が求められる仕事です。

これまでで特に印象に残っているのは、15から16個ほどのパーツに割れてしまった茶碗。まるでパズルのように破片を一つずつ組み合わせ、通常の倍以上の時間をかけて修復したといいます。

「直った器を見たお客さまが、『本当に良かった』と喜んでくださる姿を見ると、やって良かったなと思います」

金継ぎを、もっと身近に

陶器のかけらと天然石を組み合わせたアクセサリー作品

高田さんが目指しているのは、特別な知識を持つ人だけの伝統文化ではなく、“暮らしの中に自然と溶け込む金継ぎ”です。そのために高田さんが挑戦し始めたのが、陶器のかけらと天然石を組み合わせたアクセサリー作り。好みのパーツを選び、ピアスやヘアゴム、ブローチ、ヘアクリップといった自分だけの作品を作ることができます。

それは、「金継ぎ=壊れた器を直すもの」という枠にとらわれず、その技法を現代の暮らしに合った形へと広げる新しい取り組み。こうした新しいワークショップの提案やイベント出店、Instagramでの発信を重ねる中で、工房を訪れる人も少しずつ増えているといいます。

伝統をそのまま受け継ぐだけではなく、初めて触れる人にも親しみやすい形で届けること。それが、高田さんらしい金継ぎのあり方です。

「挑戦を育ててくれたまち・姫路」で

インタビューに答える高田さんのようす

高田さんが姫路へ移り住んでから約半年。そんな彼女に姫路の魅力を尋ねると、「まだまだ知らない場所も多いですが、稲美町とはまた違った、歴史や伝統が息づくまち並みに魅力を感じています」との答えが返ってきました。

工房を開いた当初は、思うようにお客さんが訪れない日も続きました。それでも、Instagramで発信を続け、イベントやワークショップに参加する中で、少しずつ活動を知ってもらえるようになり、地元の人をはじめ、さまざまな人たちに背中を押してもらったことが印象的だと話します。

挑戦を育ててくれた街

そんな高田さんが、姫路を一言で表した言葉が――「挑戦を育ててくれたまち」。

高校卒業後、単身で福岡県へ渡り、自ら修業先を切り開いた高田さん。21歳という若さで工房を構えた今も、アクセサリー作りや出張ワークショップなど、新たな挑戦を続けています。

割れた器を丁寧につなぎ、その傷跡に新たな美しさを生み出す金継ぎのように、高田さん自身も多くの人との縁を繋ぎながら、姫路のまちで夢を少しずつ形にしています。受け継いだ伝統を守るだけではなく、今を生きる人の暮らしに合う形へと継ぎ直す。若き金継ぎ師の挑戦は、姫路というまちに育まれながら、これからもまっすぐに続いていきます。

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