Vol.46 靴職人 / 石塚 昌美さん
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想いを受け取り、一足の靴へ――革のまち・姫路で紡ぐ靴職人の歩み

一枚の革が、人の足を包む一足の靴になるまで。革を裁ち、縫い、木型に沿わせ、何層にも重ねながら形を整えていく。その一つひとつの工程に手をかけ、履く人の想いを一足の靴へと仕立てているのが、姫路を拠点に活動する靴職人の石塚昌美さんです。現在はオーダー靴の製作を中心に、革小物の製作やイベント出展など幅広く活動する石塚さんですが、靴づくりの道へ進んだのは30代になってから。その歩みをたどります。
石塚 昌美(いしづか まさみ)さん
1981年生まれ、兵庫県多可町出身。兵庫県内で英語教師として約10年間勤務。趣味で始めた革小物づくりをきっかけに、靴づくりを神戸にある「靴作りの学校」で学ぶ。より本格的に靴づくりの技術を身に付けるため退職し、イタリア・フィレンツェの専門学校「アカデミア・リアチ」へ留学。帰国後は姫路市に工房兼住居を構え、2018年に「イシヅカ靴店」を開業。現在は兵庫県産の革を使ったオーダー靴や革小物の製作を手がけている。
30代で決断。教師から靴づくりの世界へ

姫路の古いまち並みに、まるで何十年も前からそこにあったかのように溶け込む一軒の家屋。扉を開けると、革の匂いが漂う空間で、一人の靴職人が黙々と手を動かしています。その職人の名前は、石塚昌美さん。一足数千円から靴が買える今の時代に、あえて一人ひとりの足に合わせ、革やデザインの希望を聞きながら、“完全オーダーメイド”の一足を仕立てています。

そんな彼女の前職は、意外にもものづくりとは異なる英語教師でした。兵庫県内の学校で約10年間、教壇に立っていた石塚さん。教鞭を執る傍ら、趣味で革小物づくりを楽しんでいたといいます。やがて革への興味は靴へと広がり、西宮で暮らしていたころ、神戸に靴づくりを学べるスクールがあることを知り、本格的に靴づくりを学び始めました。
30歳を過ぎたころから、靴づくりを仕事にすることも視野に入れ、留学資金をためながら数年かけて準備。そして約10年間勤めた教師を退職し、より専門的な技術を身に付けるため、単身イタリアへ渡ることを決意します。
革製品の本場イタリアへ単身留学

石塚さんが新たな学びの場に選んだのは、イタリア・フィレンツェにある専門学校「アカデミア・リアチ」。靴やカバン、ジュエリー、絵画修復など、さまざまな分野の専門技術を学べる学校です。石塚さんはここで約1年半、靴づくりの技術を磨きました。
英語教師として約10年間教壇に立っていた石塚さんですが、現地での生活や授業となれば、必要になるのはイタリア語。授業が本格的に始まる前から現地入りし、語学コースを受講するなど、まずは言葉を学ぶところから新たな生活をスタートさせました。

学校には、日本や台湾といったアジア圏をはじめ、ヨーロッパやエジプトなど、世界各国から生徒が集まっていたそう。年齢も国籍も異なる仲間たちと机を並べながら、石塚さんは靴づくりの技術を一から身に付けていきました。
「生活も楽しくて、もう1年くらいいたかったぐらいです」そう当時を振り返る石塚さん。慣れない土地での暮らしも楽しみながら、靴づくりに没頭した約1年半。世界各国から集まった仲間とともに技術を磨いたイタリアでの日々は、その後、靴職人として歩み始める石塚さんにとって、大きな礎となりました。
靴職人として選んだのは、革のまち・姫路

約1年半のイタリア留学を終え、靴づくりの技術を身に付けて帰国した石塚さん。次に考えたのは、靴職人としてどこを拠点にするかということでした。
靴づくりには、革を縫うだけでなく、たたいたり削ったりと音の出る作業もあります。以前、マンションで製作していたころは、周囲への音が気になり、思うように作業ができないこともあったそう。そのため、工房と生活スペースを兼ね備え、気兼ねなくものづくりに向き合える一軒家を探すことにしました。

神戸なども候補に入れながら拠点を探す中で出合ったのが、現在の工房となる姫路の一軒家。当時で築60年ほどの昔ながらの日本家屋で、駐車場があり、自分の手で改装できることも決め手になりました。そしてもう一つ、石塚さんの背中を押したのが、姫路が全国有数の皮革産地だったことです。
「姫路が革のまちだということは大きかったですね。このまちの革を使った靴づくりができることに魅力を感じたんです」と、話します。

帰国後は、電気や水道などの専門的な工事を除き、壁を塗ったり、床を整えたりと、自らの手で少しずつ家屋を改装。約8カ月かけて工房を整え、2018年1月に「イシヅカ靴店」を開業しました。「オーダーメイドの靴を目的に訪れるのはハードルが高くても、“一杯のお茶”なら気軽に足を運んでもらえるのでは」と、工房にはカフェも併設。まずは店を訪れ、革や靴に触れてもらうことで、石塚さんのものづくりを知ってもらう入り口をつくりました。
現在、カフェの営業は月に数回ほど。それでも、作品づくりやイベント出展の合間を縫いながら店を開け、人と直接顔を合わせる時間を大切にしています。
一人ひとりの想いを、一足の靴に。そして世界へ

石塚さんの靴づくりは、履く人の足を測り、好みのデザインや色を聞くところから始まります。革を選び、木型に沿わせて形を整え、縫い、乾かし、靴底を仕上げる。一足が完成するまでには、およそ1カ月から2カ月を要します。時には打ち合わせだけで2時間ほどかけることも。一人ひとりの「こんな靴が欲しい」という想いを受け取り、その人だけの一足へと仕立てていきます。

そして、石塚さんの活動を語る上で欠かせないのが、姫路やたつので生産される兵庫県産の革です。地元の革を使い続けることで、皮革に関わる人や地域との繋がりも広がり、イベントなど活躍の場も増えていきました。2025年には、そうした縁から大阪・関西万博への出展も経験。「地域の革を使う」という開業当初からのこだわりが、思いがけない場所へと石塚さんを連れて行ってくれました。
その視線は今、さらに海の向こうへ向いています。これまでも革小物を中心に、台湾のハンドメイドイベントに出展した経験のある石塚さんですが、次に思い描くのは、兵庫県産の革で仕立てた「靴」を主役に海外へ出ること。
「靴をメインにして、兵庫県のレザーで海外のイベントに出てみたいですね。デモンストレーションをしながら、オーダーに繋がらなくても、革や靴の話を現地の人としてみたいです」。

一人ひとりの想いを受け取り、姫路の革と自身の技術で、一足の靴へと仕立てる。その一足を通して、いつか世界の人にも兵庫の革や靴づくりの魅力を伝えたい――。革のまち・姫路から、石塚さんは今日も自分らしい歩幅で、次の一歩を踏み出しています。

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