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Vol.53 俥夫 / 山本 夢來さん

  • 更新日:
  • ID:34616

姫路への愛と誇りを人力車に乗せて。軽やかに城下町を駆ける女性俥夫

山本さんの写真

姫路観光のアクティビティとして、すっかり定番となった人力車。地下足袋姿の凛々しい俥夫(しゃふ)たちは、姫路城の前でいつも爽やかに観光客を迎えています。俥夫といえば男性というイメージが強いですが、最近ではさまざまな観光地で女性の姿も目にするようになりました。姫路で活躍する山本夢來さんもその一人。持ち前のパワーと明るさで、まちに活気をもたらしています。

山本 夢來(やまもと みく)さん

2006年、姫路市生まれ。高校を卒業後、市内の歯科クリニックに歯科助手として勤務する。その傍ら、2025年から姫路城周辺で観光人力車を運営する「天下車屋姫路店」に所属し、姫路では珍しい女性俥夫としても活動中。現在は歯科クリニックの休診日を中心に乗務している。

颯爽とした走りが視線を集める、まちの人気者

お客さんをのせて案内をする山本さん

「人力車に乗ると目線が高くなり、まち歩きとはまた違った視点から景色を楽しめます。ふわりとした乗り心地は新鮮で、自然の風を全身で感じられるのも爽快ですよ」。そう声を弾ませて観光人力車の魅力を語る山本さん。俥夫になって2年目ともなれば、90kgもある人力車の扱いも手慣れたもの。お客さんを乗せると軽々と梶棒を持ち上げ、そろり車道へ。徐々にスピードを上げながら、颯爽とまちなかを駆け抜けていきます。

その様子が観光客だけでなく地元の人たちの視線も集め、今ではまちの人気者に。「俥夫を始めてから、城前の商店の人や行き交う車の中からも声を掛けていただくようになり、知り合いが増えました」と笑顔を見せます。

人力車に初めて乗車し、姫路の魅力を再認識

俥夫として活躍するようす

山本さんは現在、市内の歯科クリニックに勤めながら、週に2日ほど「天下車屋姫路店」の俥夫として働いています。二足のわらじを履くきっかけとなったのは、偶然目にした「俥夫募集」の求人案内でした。当時は歯科助手の仕事にも慣れ、休日を生かして何か新しいことを始めたいとアンテナを張っていたころ。それまで人力車に乗ったことも、走っているところを目にしたこともなかったそうですが、おもしろそうと興味を持ち、「ダブルワーク歓迎」の言葉にも背中を押され、気軽な気持ちで同店を訪れました。

社長から俥夫の仕事について説明を受ける中で、「まずはお客さんとして人力車を体験してみないか?」と勧められ、実際に乗ってみることに。すると、わかりやすくも奥深い俥夫のガイドに、どんどん引き込まれていきました。

「商店街の名前の由来や姫路城にまつわる昔話がとても興味深くて。知らなかった歴史や文化に触れてまちを見る視点が変わり、見慣れたはずの風景が新鮮に映ったことに驚きました」。

この経験を機に、「姫路の歴史や文化についてもっと学び、人力車を通してたくさんの人にまちの魅力を伝えたい」と考えるようになった山本さん。勤務先の歯科クリニックの人たちも熱意を快く後押ししてくれ、19歳で俥夫としてデビューしました。

心の空白を埋めた、俥夫という新たな生きがい

俥夫仲間とのようす

酷暑の日も寒空の下も走り続ける俥夫の仕事は、とにかく体力勝負。小柄な山本さんを見て「重い人力車を本当に操れるの?」と、いぶかしげな顔をするお客さんもいますが、ひとたび走り出せば印象は一変。力強く安定した足取りにだれもが魅了されます。

男性俥夫にも引けを取らない脚力とスタミナは、幼いころから続けてきたサッカーで培ったものです。小学2年から少年団で男子に混じってプレーし、中学では女子クラブチームに所属。高校時代には実業団から声がかかるほどの実力を身につけました。けれども、高校卒業と同時にサッカーからは離れることに。

サッカーに打ち込んでいた頃のようす

「世間では『女子はプレーに迫力やスピードがない』と言われることが多く、自分がどれだけ努力しても男子サッカーと比較されてしまう現実に歯がゆさを覚えるようになりました。また、将来を考える中で、サッカーだけで生計を立てていくことの難しさも痛感。全力で打ち込み、もうやり切ったという思いもあったことから、きっぱりと区切りをつけることにしたのです」。

サッカーを辞めてできた心の空白。それを埋めてくれたのが俥夫の仕事でした。体を動かすことに喜びを感じる山本さんは、再び夢中になれるものを見つけ、充実した日々を送っています。

“やりがい”と“気づき”を与えてくれたお客さんの言葉

お客さんと言葉を交わすようす

おしゃべり好きで親しみやすい人柄から、すぐにお客さんと打ち解けてしまう山本さん。おもてなし中は軽妙なガイドに加え、自慢のフリートークで旅のひとときを盛り上げます。聞き上手な一面もあり、時には悩みを相談されることも。「『あなたと話していたら気分が晴れた』と喜んでもらえた時は、ほっとすると同時にやりがいを感じましたね」と柔らかな笑みを浮かべます。

姫路城を訪れる人たちに声をかける山本さんのようす

一方で、お客さんに声を掛け、乗車を勧める“営業”では苦労もありました。特に厳しかったのが冬の営業です。寒さが増すと姫路城を訪れる観光客が減り、人力車の利用も少なくなります。思うように売り上げが伸びず、焦りが募る日々。そんな状況を抜け出せたのは、ある乗客からの言葉がきっかけでした。

「営業職をされている方に思い切って不安な胸の内を打ち明けたところ、『自分を追い詰めないで、一人ひとりのお客さんとしっかり向き合うことが大事』とアドバイスをいただきました。その日を境に、『乗ってもらえなくてもいい、目の前の人との出会いや会話を楽しむようにしよう』と意識を切り替えると、次第に状況は好転。少しずつ乗車してくださる人が増え、売り上げも回復しました」。

今では肩の力を抜いて営業に取り組めるようになり、常連客も増加。後輩に指導する立場も担い、俥夫としての自信を深めています。

まちの温かな声援に背中を押されて

姫路のまちを通した温かな出会いを大事にしていきたい

山本さんには俥夫になって改めて気づいたことが2つあります。1つが、姫路城を中心に広がる景観の美しさです。特にお気に入りなのは、緑と赤レンガの建物が見事に調和する姫路市立美術館周辺と、視界を遮るものがなく姫路城を望める男山。「走るたびに、私のまちはなんてステキなんだろうと誇らしくなります」。

そしてもう1つが、まちの人たちの温かさです。「仕事の準備をしていると、商店の人が『今日もがんばって!』と声を掛けてくださったり、お茶を差し入れてくださったり。お客さんを乗せて走っている時には、道行く人たちが必ずと言っていいほど手を振ってくださるんです。皆さんの応援が大きな支えになっています」。

人力車を通した出会いを大事にし、歴史あるまちの彩りや、そこに暮らす人たちの心の豊かさを伝えていきたいと語る山本さん。これからも笑顔でまちを駆け巡り、姫路の尽きない魅力を多くの人に届けてくれることでしょう。

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